2024年7月16日(火)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2024年5月9日

 前述したシアトル・マリナーズの本拠、Tモバイル・パークの場合は、隣にフットボールのシーホークスのスタジアムが同じように可動式屋根を備えるデザインで建っている。この2つのスタジアムが並ぶ様子は壮観で、そのスケール感も魅力となっている。

 水辺に建っている球場もある。例えばサンフランシスコ・ジャイアンツの本拠地、オラクル・パークは、サンフランシスコ湾の海岸に建っており、ライト方向の外野スタンドが少ないことから簡単にホームランボールが海に落ちるようになっている。また、ピッツバーグ・パイレーツのPNCパークも、3つの川の交わる水辺にあり、夏場でも独特の清涼感を演出できている。

 ニューヨーク・ヤンキースの場合は、2009年から新築の新球場に移転したが、隣接している旧球場の跡地にはリトルリーグなどの子供用の球場が建設されており、全体が広大な野球の公園となっている。これぞ、まさにボールパークというわけである。

日本はどう取り入れるべきか

 日本の場合だが、球場別の食文化だとか、グッズ販売ということでは米国に全く引けを取らないエンタメ性を確保していると思われる。問題は空間の見せ方だ。

 例えば、広島東洋カープの本拠「マツダスタジアム」は最新の米国の球場デザインを良く研究して美しく設計されている。だが、残念ながら敷地が大きくないので、球場全体の開放感にはどうしても限界がある。

 カープ球団の場合は、広島県だけでなく隣接する中四国各県へのマーケティングも熱心に行っており、次の黄金期には改めて猛烈な集客を実現する可能性は十分にある。それまでに何らかの拡張工事を行い、空間の見せ方をもう一段スケールアップできれば、素晴らしい球場になるであろう。

 この点で、昨年オープンした北海道北広島市のエスコンフィールドHOKKAIDOの場合は、開閉式の屋根と天然芝を採用しただけでなく、周辺の土地も含めたスケール感のある開発で、まさに「ボールパーク」としての開放感を実現している。これはファンにも好評であり、今後は日本でもこのようなスタイルが主流となることを思わせる。

 こうした流れは、東京ドームから築地への移転を検討しているという、読売ジャイアンツの本拠地問題にも影響するのは間違いない。昨秋には、同球団が築地への移転を検討するという報道が一部でされたが、築地の場合は、ギリギリ球場を建設するだけの土地しかなく、「ボールパーク」に必要な空間の開放感を実現するのは難しい。

 どうしても築地ということであれば、浜離宮も含めた空間の開放感を演出するか、ウォーターフロントとして隅田川を借景とするなど、設計上のウルトラCが必要となってくるであろう。仮に東京ドームの再開発という場合でも、そもそも遊園地を含めた後楽園の敷地内では、同じように開放感のある設計は相当な工夫が必要になると思われる。

 再開発ということでは神宮球場の移設も計画されている。こちらはホテルを併設した新球場というのだが、現在の計画では高層ビルが借景になってしまうようで、空間の確保ということでは疑問が残る。

 日本の、特に東京などの大都会では、まとまった敷地を確保するのは簡単ではない。したがって、この空間の演出ということでは、借景の利用や球場のデザインなど、さまざまな要素を組み合わせた知恵が必要となってくる。そうしたデザインの面で成功して初めて野球場は「ボールパーク」となるのだ。

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