2024年7月16日(火)

勝負の分かれ目

2024年5月28日

 そう長谷部が語るように、キャプテンという立場が長谷部の行動や振る舞いに大きな影響を与えたことは間違いない。大ベストセラーになる『心を整える。勝利をたぐり寄せるための56の習慣』(幻冬社)は14年1月に発売されたが、元から長谷部が備えていた習慣というより、クラブと代表で良い時、苦しい時を送る中で、常にメンタルコントロールしていくためのノウハウを学び、書籍にまとめたものだ。

選手としてチームとして乗り越えた逆境

 12年の夏にはヴォルフスブルクからのステップアップを求めた移籍がうまく行かず、クラブに残ることになった長谷部に、厳しい現実が待ち受けていた。ブンデスリーガの開幕戦から8試合続けてベンチ外が続き、長谷部によるとチーム練習にも参加させてもらえなかったという。しかし、そうした時期にも日本代表のキャプテンとして招集された長谷部は「キャプテンとして、周りの選手にも示さないといけなかったので。キャプテンというのは言葉で伝えることもありますけど、プレーヤーとして背中で見せないといけない部分もある程度はあると思っているので。そういうところが、説得力がない部分も感じていたし、すごく悩んで苦しい時期でした」と認める。

長谷部誠による『心を整える。勝利をたぐり寄せるための56の習慣』。苦しい環境を乗り越えるためのノウハウが蓄積されている

 そうした時期を乗り越えて挑んだ14年のブラジルW杯だったが、日本は国民の期待と裏腹に、グループリーグで惨敗を喫してしまう。それでもハビエル・アギーレ監督が就任した新体制で再びキャプテンを任されると、準々決勝で敗退したアジアカップ後にチームを引き継いだヴァイッド・ハリルホジッチ監督にも引き続き、キャプテンを任された。

 忘れもしないのは17年3月。最終予選のアラブ首長国連邦(UAE)戦で、もし負ければ日本が大きなピンチになるという状況で、活動直前のリーグ戦でゴールポストに直撃し、両足を痛めてしまったのだ。

 おそらく試合に出ることは厳しいとみられる中で、ドイツから合流した長谷部はメディカルチェックで離脱が決定されると、仲間たちにメッセージを託した。そこでキャプテンが不在のチームは強い結束を見せて、UAEに2−0で勝利した。”アギーレ・ジャパン”から”ハリル・ジャパン”、そして本番直前に監督交代を経験した18年のロシアW杯まで、多くの選手が初めてA代表のユニフォームに袖を通したが、彼らがすんなりとチームに入れたのは紛れもなく長谷部キャプテンの存在によるところが大きい。

 その長谷部もベスト16で終えたロシアW杯を最後に、日本代表からは外れてクラブに専念するようになった。しかし、その偉大な背中を見てきた吉田麻也が22年のカタールW杯で見事にキャプテンとして支えると、その後は遠藤航が引き継いでいる。

 それぞれ性格的なキャラクターは異なるが、キャプテンとしての姿勢というものは長谷部誠が築いてきたもの。そうしたキャプテン像はこれから先、日本代表がさらなる成長をしていく中でも継承されていくはずだ。(文中敬称略)

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