「知る権利」と「プライバシー保護」
また、名誉と似ているものとしてプライバシーがあります。プライバシーとは、要は、自分のプライベートな空間や秘密にしておきたい事柄について、他者から無用な干渉を受けずにいられる権利のことを意味します。
名誉毀損と同様、プライバシー侵害もまた、許されません。
①一般の感受性を基準に判断して、該当者の立場に立ったならば公開を欲しない事柄であって、
②一般的にまだ知られていないのに、それを公開してしまって、
③その人が不快・不安の念を覚えたという要件が充たされた場合、プライバシー侵害があったということになります。
たとえば、インターネットを使って、「会社の部長○○○が秘書課の△△△と浮気している!」と現場写真つきで投稿してみたり、「今、バイト先に女優◎◎◎がプライベートで来店中。小籠包食べてる! けっこう大食い(笑)。」なんて情報を書き込んだ場合、プライバシー侵害になる可能性があります。社会的評価が下がったか否かに関係なく、知られたくない自分の事柄を暴露されてしまったという点がポイントです。
ただしここでも、表現の自由・報道の自由との衝突があります。プライバシーは、他人にとっては知る権利の対象となりえます。社会の正当な関心はどこまでなのかを、慎重に見極める必要があります。
「実名報道」のその後…
名誉毀損やプライバシーと表現の自由の対立は、マスコミにおける関係者の実名報道などにも表れます。実名報道とは、被疑者や被告人の実名を明らかにして、犯罪の事実を報道することです。
もちろん、報道機関には表現の自由があり、また、国民には知る権利があります。しかし、実名報道があれば、周囲は、その人を犯罪者として見るようになり、裁判で決着がつく前から、犯罪者であるかのように扱われ、会社を解雇されるかもしれません。しっかりと反省してやり直そうと思っていても、嫌がらせを受けることもあります。それを避けて引っ越しをしても、次の転居先でバレて、また引っ越しをするなど、居場所がなくなる場合もあります。実名報道された家族も、犯罪者の家族として、社会の中でさまざまな差別を受ける恐れがあります。
なお、少年事件の場合、少年法61条*5により、基本的に、罪を犯した少年の個人情報を報道してはいけないこととなっています。しかし、時として「実名報道せよ」という世論が噴出します。また、この条文には罰則がありませんので、実名報道をしてしまうケースも散見されます。
*5 【少年法61条】家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない。