伝える力がより多く残っている時に
現在、世田谷区の「認知症初期集中支援チーム」のチーム員であり、桜新町アーバンクリニックの訪問看護師、片山智栄さんは次のように話す。「すべての人ではありませんが、認知症が進んでいくと、行動・心理症状といわれるものが出てくることがあります。そのときに、その方の生活習慣や大切にしていることが分かっていないと、どうしてその言動が出ているのか、何を不快に感じていらっしゃるのかというのがうまくアセスメントできません。その方の伝える力がより多く残っている時に、ご自身から、これまでの人生の中で大切にしてきたものや、これからの希望を聞いて、記録に残しておきます」。
周囲の人には、一見なぜそうしているのか、そんなことを言っているのかが理解できないと思える認知症の人の言動も、それは本人が以前のような言葉で感情などを表現できなくなったことから起きていることがある。本人からの聞き取りは、そんな言動をひもといて、理解する一助になるのだ。
右から、東京都世田谷区の桜新町アーバンクリニックと、千葉県旭市の海上寮療養所で診療を行っている精神科医の上野秀樹さん、桜新町アーバンクリニックの訪問看護師片山智栄さん、外来看護師の芝原由美さん
上野さんも言う。「認知症初期集中支援チームにおける大きなポイントは、早く診断をするのが大切なのではなくて、なるべく早い段階で、すなわちその人が自分の意思を表明できる段階で、その人の言葉をたくさん聞いてそれを記録し、その後の支援に役立てるということではないかと思っています」。
ここでのポイントは、あくまでも“本人の”話を聞くこと。
「たとえ認知症が進んでいたとしても、ご本人が今発言できる記憶の部分でのヒアリングをします。ご本人の言葉で、ご本人が伝えたい記憶を保存しておくのが大事なんです。たとえばお子さんも、お父さんが20代の時に何をしていらしたかということを知らない場合もありますから」と、片山さん。