2024年4月19日(金)

医療を変える「現場の力」

2013年12月12日

「物忘れ外来」から得たヒント

 上野さんは、認知症初期集中支援チームの研究事業に関わる以前の2009年11月から、千葉県旭市の海上寮療養所で、当時まだ一般的ではなかった精神科医による認知症の人への訪問診療を開始していた。

 実は同年4月に「物忘れ外来」を開いたものの、認知症で困っている人はいるはずなのに、ほとんど来院する人がいなかったからだ。「それならこちらから出向いてみよう」と、訪問を開始したのだという。

千葉県旭市で高齢者施設へ認知症の人の訪問診療を行う上野さん

 外来に来てくれなくても、訪問はすんなり受け入れてくれるかというとそうでもない。やはり病識のない人や医者嫌いの人は受け入れてはくれない。しかし少しでも早い時期から適切な支援をと、上野さんは、市役所や地域包括支援センターと相談の上で、「役所から健診にきましたよ」などと工夫をしながら、多くの認知症の人や、認知症かどうか分からないけれど来てほしいという要望のあるお宅などを訪問してきた。

 「家にお邪魔することで、生活の場でのその人の様子や、家族との関係、生活環境を見て、そもそもその人は認知症なのか、だとしたらどんな支援や医療が必要なのか、診断やさまざまな見極め、薬を飲んでいれば様子を見ながらの微調整ができます。また、実情を見ての家族へのアドバイスなども可能です」と、上野さん。

 これは、副次的な効果も生み出していた。相談できる相手がいる安心感により、家族のストレスが軽減し、それが認知症の人への接し方に影響し、本人の症状が落ち着いてきたのだ。

 これらの経験から上野さんは、前述の「なるべく早い時期から関わり、生活環境を調整し、不安を取り除いていけば、それまでと同じような生活を送ることができる可能性がある」ことを実感することになった。

 一方で、2009年から、厚生労働省でも認知症の人の精神科病棟への入院の問題が議論されていた。その中で、認知症の人への訪問の有効性も注目を浴びることになった。


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