財源は不足するだろう。ロペス・オブラドールは政権最後の年に財政規律へのコミットメントを放棄し、インフラプロジェクトや福祉プログラムに多額の資金を投入した。
シェインバウムは、医療、教育、福祉を拡充するという公約を守りつつ、国内総生産(GDP)比6%ポイント近い予算の赤字を埋めなければならない。また、再生可能エネルギーの促進を公約しているが、同時に、エネルギーに対する国家の支配と経営難に陥っている国営石油会社への高額な支援も維持すると明言している。
米国との複雑かつ微妙な関係には、特にトランプが勝利した場合に大きく影響が出るだろう。トランプは、11月に勝利すれば関税を引き上げ、不法移民を取り締まると公約している。
シェインバウムは、ロペス・オブラドールよりも学術的で国際的な経歴を持ち、圧倒的な得票という後ろ盾を持って大統領に就任する。しかし、彼女が直面する課題はより大きく、予算はより厳しく、そして30年代の革命指導者のラザロ・カルデナス以来この国で最も人気があり成功した大統領の後を継ぐという大変な仕事がある。
より容易な富の再分配はすでに完了しており、シェインバウムは、公共サービス拡充のための増税など、より争点の多い分野に取り組まなければならない。同時に、過去の一党支配への扉を開くことを懸念する急進的な憲法改正を進めるこの国で、外国人投資家の資金は安全であると安心させなければならない。
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積みあがる政治課題
6月2日のメキシコ大統領選挙は予想以上のシェインバウムの大勝利となり、議会選挙や知事選挙でも国民再生運動(MORENA)連合の圧勝に終わった。シェインバウムは、60%近くを得票し、実績や知名度に劣る野党連合候補のガルベスに30ポイント以上差をつけたようである。
上下両院の選挙でも、MORENAと連合を組む緑の党と労働党を合わせれば、それぞれ憲法改正に必要な3分の2の議席を獲得する模様だ。
選挙結果につき、この論説は、概ね要点をカバーした内容であり、妥当な分析と思われる。特に、冒頭の所得再分配を象徴するものとの見方には同感であり、メキシコ社会が変わりつつあるように思える。
元々富裕層と低中所得層の格差は極めて大きく、新型コロナ・パンデミックで中間層の人口比率が2018年の42.2%から20年の37.2%に減少し、拡大した低所得層は国民の6割を超えた。18年に当選したロペス・オブラドールは、最低賃金引上げ、各種の社会給付や補助金の支給、年金の引き上げ等の措置を講じ、低所得層の支持を得ると共に、低所得層自身がいわば政治的に目覚めて、貧富の格差の是正を求めて自己主張を始めたのではないかとの印象を受ける。
上下両院でMORENAとその連合が3分の2の議席を確保したとすれば、ロペス・オブラドールが望んでいた電力ビジネスにおける国営企業の優先や最高裁判事や選挙管理委員の直接選挙制等に必要な憲法改正に取り組むであろう。憲法改正案の中にある下院の比例区の廃止は、小選挙区制だけにすることにより、MORENAが多数党としての地位を長期的に確保することを意図していると思われ、ロペス・オブラドールが何を目指しているのかが懸念される。