また、コメを農協に出荷すると農協口座が確実に利用される。転作に関わる補助金も農協口座が多くの場合利用される。農協にとっては農協口座を確実に使う多くの兼業農家を確保することは組合運営の上からも重要なこと。農協の生組合員のうち圧倒的部分を占めるのが、農業所得が全体の7~8%程度しかない「兼業農家」や「自給的農家」、「元農家」。しかも彼らが我が国のコメの6割を生産している。
農協にとってこうした正組合員をつなぎ止めるには彼らのコメ集荷は必須であり、集荷量や手数料確保のためには米価維持が必須となる。米価維持と減反に関わる様々な補助金は今や農協ビジネスになくてはならない収入源ということだ。
しかし、こうして集めたコメが市場からあぶれ、米価下落と生産調整のいたちごっこを生んでいる。兼業農家は余ったコメを農協に出荷し、農協は集めれば集めるほど売り先がなくなり在庫を積みましている。この仕組みは破綻を来しており、我が国のコメ産業だけでなく、農協のコメ事業をも危機に陥れている。
農林族議員の圧力が農政を「逆進」させた
こうした農協ビジネスを支援しているのが自民党農林族である。農協と自民党の関係は食糧管理法の頃にさかのぼるほど古い関係だが一時期疎遠になっていた。「政治米価」と称されるほど政治家の影響が強かった米価決定システムが食管法廃止によってなくなったことや、農協の集票力がなくなったことなどが原因だ。その間に、農業者や農民が主体的に減反を行う「米政策改革大綱」などが作られ07年秋からスタートするはずだった。
しかし、07年夏の参議院選の自民党敗北は、自民党農林族議員を慌てさせた。民主党の勝利の一因に農家へのバラマキ政策ともいわれる「戸別所得補償」政策があったのではないか、自民党から立候補した全中専務が45万票と圧倒的な票を得たが農協にはまだまだ票があるのではないか、そうしたことが理由だった。
それまで農協の推薦する自民党参議院議員の得票数は11万票台まで落ち込み、農協からもはや票は出ないとさえ言われていたのだから驚きだった。こうして秋以降、自民党と農協の蜜月は復活し、減反強化と締め付け強化へと農政は「逆進」することとなった。
農林族議員と農業団体が一体となって政府官僚を動かす構造は、農業、特にコメでは露骨で根強いものがある。政府の審議会等で政策決定がなされる場合には、自民党政調会やその下部機関の「農業基本政策委員会」等で同様の方針を出してから政府が決定するという手順を踏んでいる。この意思決定プロセスを利用して官僚を操っているのが自民党農林族議員であり、その族議員に影響を与えているのが農協という構図である。これは、いわゆる政官業一体となったトライアングル構造で、官僚内閣制でもましてや議院内閣制でもない。「族議員内閣制」とでもいった、業界の利益を代表する仕組みだ。減反を宿痾の構造にしている元凶は、まさにここにある。結局、「票と俵」のバーターであり、農業界と政治家との既得権益こそが問題なのだ。