2024年11月22日(金)

経済の常識 VS 政策の非常識

2024年7月11日

 そんな状況でも、腕を持て余した大工はたくさんいて、今さら別の仕事にも付けない。大手ゼネコンや住宅メーカーは彼らを安く雇うことが可能になった。

 かくして、生産性上昇の利益は、メーカーがすべて取り、大工にはいかないという状況になった。それでは大工になる人がいなくなる。

大工という仕事を無くならせてはいけない( welcomia/gettyimages)

 しかし、すべてを工場で作ることもできない。凝った家を作りたがる人もいる。万博のパビリオンとは、とてつもなく凝った家のようなものだ。

 リフォームも工場ではできない。リフォーム・ブームは、供給面から言えば仕事の減った大工が支えていたのだろう。何億もするマンションの内装も工場で作られた定型の材木などだけではできない。

外国人労働者ばかりにも頼れない

 建物の解体作業では、よく外国人労働者を見かけるが、柱を立てた後の現場ではあまり見かけない。図面を見ながら間違いなく組み立て、配管や配線の準備を間違えずに行うには、安い外国人労働力だけでは難しいのだろう。高所の危険な作業も、コミュニケーションに問題のある外国人となると、事故を誘因してしまう恐れがある。

 外国人の働かせ方について度々問題が指摘されている日本でも、さすがに死者が出るようなことはさせられない。このままの大工や関連の技能者の職場環境では、人員不足が起きるのは当然である。もちろん、図面を読めてコミュニケーションに支障がなく、十分な技能を持った外国人労働者でも良いが、そういう人材を安く雇うことはできないだろう。

 大工不足は、生産性上昇の利益をメーカーと発注者がすべて取ってしまったからだ。その一部を大工に返し、すなわち、給与を引き上げ、大工でなければできない仕事が数多くあることを示し、この仕事に未来があることを人々に納得してもらえれば大工を目指す若者が現れ、大工不足は解消する。

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