2024年7月24日(水)

BBC News

2024年7月24日

アンソニー・ザーカー北米担当編集委員

ジョー・バイデン米大統領が大統領選からの撤退を表明してから24時間もたたないうちに、カマラ・ハリス副大統領が民主党の大統領候補指名を獲得する道が開けてきた。

しかしこれは簡単な部分かもしれない。11月に共和党候補のドナルド・トランプ前大統領に勝つという、最も手ごわい挑戦が待っている。ハリス氏が大統領候補の筆頭になったことで、民主党は新たな力を得るだろうが、同時に、バイデン氏の時には気にならなかった弱点をさらすことになる。

最近の世論調査によると、ハリス氏は前大統領にわずかに後れを取っており、歴史的な発表をする直前のバイデン氏と同じような位置にいる。しかし、この対決が仮定から現実に移っていくにつれ、この数字が変化する余地はもっとあるかもしれない。

少なくともこの瞬間は、3週間以上にわたってバイデン氏の体調と選挙戦を維持する能力をめぐって激しい論争を繰り広げてきた民主党に、活力がみなぎっていることだろう。

ハリス氏の有力なライバル候補は全員、ハリス氏を支持している。また、民主党内でなお最も影響力のある人物の一人である、ナンシー・ペロシ前下院議長も支持している。

それでもなお、11月の選挙は厳しいものになりそうだ。これは、アメリカ政治における党派間の深い溝と、多くの有権者が候補としてのトランプ前大統領に抱いている嫌悪感を反映している。

ハリス氏の主な課題、そしてチャンスは、このトランプ嫌いを利用し、主要な激戦州の中道派有権者を引きつけ、ここ数週間、絶望に傾いていた民主党支持層を活気づけることだろう。ちょうど、多くの右派がトランプ前大統領に抱く熱狂に匹敵するほどに。

選挙戦のリセット

民主党に起こった大統領選への新たな熱意には、ドルマークが付随している。ハリス陣営によると、副大統領はバイデン氏の発表から24時間で8000万ドル(約124億円)以上の寄付金を集めた。これは、今回の大統領選で候補者が1日で集めた金額としては最大だ。これに、バイデン・ハリス陣営の資金源から受け継いだ1億ドル近い寄付金を合わせたものが、今後の選挙戦に向けた、大統領候補としてのハリス氏の強固な足場となる。

ハリス氏が候補者になれば、共和党が対立候補に仕掛けた最も効果的な攻撃の一つである「年齢」という攻撃もかわすことができる。

トランプ陣営は、数カ月にわたり、バイデン氏を弱々しく混乱しやすいと批判してきた。この指摘は、4週間前の討論会での体たらくによって、多くのアメリカ国民が思い知らされたことでもある。

59歳のハリス氏は、民主党にとってより精力的に選挙活動を展開できる候補者となり、より一貫した主張を行うことができるだろう。

また、78歳のトランプ前大統領に、史上最年長で大統領になりうる人物だと、批判を突き返すこともできる。

さらに、ここ数カ月でバイデン氏から離れつつあった黒人有権者の支持も回復させることができるかもしれない。

もしハリス氏が、マイノリティーや若い有権者からの支持をもっと獲得できれば、今年の選挙を左右する数少ない激戦州で、トランプ前大統領に対抗する足場を固めることができるだろう。マイノリティー層と若年層は、2008年と2012年にバラク・オバマ元大統領(民主党)を勝利に導いた組み合わせだ。

ハリス氏の検事としての経歴は、犯罪に厳しいという信任を高めることもできる。2019年に民主党大統領候補に立候補した際には、その法曹界での経歴があだとなり、左派から「カマラは警官だ」という嘲笑的な攻撃を受けることになったが、トランプ前大統領に対抗する選挙戦では助けになるかもしれない。

ハリス氏はまた、人工妊娠中絶をめぐる問題について、政権の指南役を務めてきた。中絶をめぐる問題は、最近の選挙で民主党支持層を動かす最も強力な争点の一つであることが証明されている。対照的に、バイデン氏は中絶手術の制限を支持した過去があるため、この問題では消極的な立場をとることもあった。

元下院議員で、民主党下院選挙活動委員会(DCCC)の委員長を務めたスティーヴ・イズラエル氏は、BBCのポッドキャストに出演し、「(ハリス氏は)全米の郊外の女性たち、特に激戦州の女性たちに、リプロダクティブ・ライツ(生殖に関する権利)の何が危機にひんしているかを思い起こさせたと思う」と話した。

「我々は選挙戦の根本的なリセットを確立した」

ハリス氏の弱点

バイデン氏が撤退すれば、副大統領であるハリス氏がその後任となることは明らかだった。そのため、ハリス氏には潜在的な強みがあるにしろ、民主党の一部は当初、バイデン氏を撤退させることに消極的だった。

中絶問題では民主党員の熱狂的な支持を得たものの、ハリス氏の副大統領としての実績は芳しくない。政権発足早々、ハリス氏はアメリカとメキシコの国境における移民危機の根本原因に対処する任務を与えられた。2021年6月に行われたNBCニュースのレスター・ホルト司会者との手際の悪いインタビューなど、数々の失策や失言がハリス氏の地位を傷つけ、保守派の攻撃を許すことになった。

共和党はすでに、ハリス氏を大統領の 「国境担当の第一人者」として非難し、世論調査で判明したバイデン政権の不人気な移民政策の顔役にしようとしている。

「これらの激戦州では、移民問題は民主党の弱点となっている」と、前出のイズラエル氏は話す。

「公平か不公平かは別として、これらの郊外に住む有権者にとって、移民問題は非常に重要だ。こうした人々は、移民制度が十分に強力に管理されていないと考えている」

トランプ陣営はまた、ハリス氏の検察官としての経歴を逆手に取ろうとするだろう。前大統領の刑事司法改革の実績を強調する一方で、ハリス氏の過去の訴追や仮釈放の決定を攻撃するとみられる。

ハリス氏のもう一つの弱点は、候補者として、波乱に富む戦いを経験していないことだ。2016年の上院選では、民主党の多いカリフォルニア州で共和党からの形ばかりの反対にあっただけだ。

そして、たった一度の全国区への単独出馬、つまり2020年の民主党大統領候補指名への道は失敗に終わった。序盤は躍進したものの、インタビューでの失敗、明確なビジョンの欠如、選挙活動運営のまずさなどが重なり、最初の予備選の前に脱落してしまった。

第一印象

ハリス氏にとって最大の難関は、バイデン氏と違って現職ではないことだろう。バイデン氏の業績の中の不人気な要素から距離を置くチャンスはあるかもしれないが、有権者にとってすでに知名度のある存在になっているという利点もない。

共和党はハリス氏に、大統領になるにはあまりにも未熟でリスクが大きすぎるというイメージを植え付けようと猛烈な努力をすると予想される。実際、トランプ候補は今や、自分が唯一、大統領としての実績がある人物だと主張できる。

ハリス氏はこれから数日間、アメリカ国民に新たな第一印象を与える機会に恵まれる。もし出だしでつまずけば、8月下旬の民主党全国大会まで長引く権力闘争への扉を開くことになりかねない。その結果、党が別の候補者の支持でまとまるか、あるいは党自体がばらばらになってしまうかもしれない。

これまでの4週間が示しているように、大統領選における運命は素早く、そして永続的に変化する可能性がある。そうした中で、ハリス氏はアメリカ政界最大の舞台へのチケットを手にした。そして今、自分が戦えると証明しなければならない。

(英語記事 Has Kamala Harris got what it takes to beat Trump?

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/ce93d55rwxxo


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