2024年7月30日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年7月30日

 ところが最近の米政府の評価では、Type094であっても射程約1万2000km程度のJL-3の搭載が可能とされた。また新型原潜(Type096)は長射程のJL-3を搭載するのみならず、旧型より静粛性が大きく向上すると見込まれている。

米本土や欧州全域への攻撃可能に

 このことの意味は大きい。すなわち、射程8000km程度であれば南シナ海から米本土を叩くには十分でなく、太平洋に出て行かなければならないが、1万2000kmあれば南シナ海に居ながらにして米本土を叩くことができる。

 そうなれば中国にとっての南シナ海は、ロシアにとってのバレンツ海(北洋艦隊にとっての「要塞」)やオホーツク海(太平洋艦隊にとっての「要塞」)と同様の位置づけとなり、戦略第二撃能力の要たる戦略原潜の活動領域としてその排他的利用を目指すべき海域となる。これが中国による南シナ海全域にわたる権利主張の背景にある軍事戦略的発想である。

 つまり南シナ海は国際航行の自由の観点から重要な海域であると同時に、中国が彼らの信じる国家安全保障上の長期戦略に基づき影響力を確保すべき海域となっている。しかも中国による戦略の中核をなす戦略原潜が搭載するミサイルの射程1万2000kmは米本土のみならず、欧州全域をもカバーしており、欧州諸国としても自身の安全保障にとっての懸念材料とならざるを得ない。

 以上のような、欧州にとっての中国固有の懸念の上に、ロシアのウクライナ侵攻以降、強化されてきた中国による事実上の対露軍事支援がある。ブリンケン米国務長官が本年5月の記者会見で述べたところによれば、ロシアが輸入する工作機械の70%、マイクロエレクトロニクスの90%は中国から輸入されており、中国はロシアが戦争を続ける上でワシントン・サミット宣言にあるとおり、まさに「decisive enabler」(決定的な支援者)となっている。

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