沿岸での定置網のような漁では、様々な魚種が一度に漁獲されることがありますが、例えば沖合での巻き網漁は魚群がまとまっていることが多いので、5種類、10種類と選別し切れないほどの魚を一度に混獲することはまずありません。また、プロが魚群探知機を見れば、その魚群がサンマなのかサバなのかある程度識別できるので、魚種ごとの管理は可能です(最新の漁業機器については後述)。
また、時期によって回遊する魚の種類が異なるため、イワシとサバでは使用する網を使い分けるなど、現場では細かい対応を行っています。店頭でイワシとサバが皿に山盛りになって、「はい! お魚ですよ」と一緒に売られているのを見たことがあるでしょうか? 魚は水揚げ現場で、選別されています。個々の魚種でしっかりと数量が管理されているのです。
「科学的知見が十分でない」?
TAC魚種が増えない不思議な理由
現在のTAC魚種以外にカタクチイワシ、マダラ、ホッケ、ブリ、ウルメイワシといった魚種が新たな追加魚種として挙げられているものの「生物的知見が少ない」、「精度の高い資源量の推定や将来予測は難しい」という理由で採用されていません。しかし、ペルーではカタクチイワシ(アンチョビ)の漁獲枠をTACで管理し、その増減は世界の魚粉市況を大きく左右する影響力をもっています。マダラについてもノルウェー、アイスランド、ロシア、米国といった国々では厳格なTAC管理は常識です。
果たして、日本の科学的な知見は諸外国より劣るために管理ができないということなのでしょうか? 日本の海だけが資源量の測定が難しい特殊な海なのでしょうか? 日本は、問題を先送りせず、やる気になれば世界一の科学的な知見を得る実力があると筆者は思っています。もともと世界中で漁場を開発してきたのも、魚群探知機を発明したのも日本の企業です。既にTACを取り入れて成長を続ける各国においては、現在のような進んだ漁業機器ができる前からTACを厳格に運用しています。
最初は漁獲動向を見ながら、控えめなTACを設定して徐々に精度を高めて行く方式でもよいでしょう。その先進的な例が新潟県の甘エビの個別割当制度です。(第5回参照にリンク)。不確実性の話をして、問題を先送りしてもどうしようもないのです。このまま現在の誤った政策が続けば、将来世代に迷惑をかけ、後になって必ず「なぜ諸外国にこれほど成功例があったのに取り入れなかったのだろう?」ということになってしまうでしょう。しかしそれでは遅いのです。時計の針はもとには戻せません。