「海のはじまり」という仕掛け
葬儀場で水季の棺にすがるようにして、死に顔を見る少女に夏は驚く。会場の待合場の椅子が並んだ部屋で、夏は絵を描いている少女に話しかける。「水季の娘さん?」と、夏が話しかけると「うみ、サンズイ」と答える。年齢は6歳だと。「海」である。
夏は海(泉谷星奈)にイヤホンを渡して、自分のスマホの映像を見せる。夏と水季が海に遊びに行ったときのものだった。これが伏線となって、最高傑作の忘れられないひとつのシーンにつながっていくのである。
海が絵を書いていたあと片付けをしていた、水季が図書館で働いていた時の同僚だった津野晴明(池松壮亮)は夏と挨拶をして、夏の名字が月岡であることを知る。そのことを水季の母親である朱音(大竹しのぶ)に告げる。夏は斎場からの帰りのバス停に立っていた。
朱音 「月岡さん?」
夏 「はい」
朱音 「あの、水季の母です」
夏 「はい、えーっと」
(朱音はスマホの番号を書いた紙を、夏に手渡しながら)
朱音 「気になったら、連絡をください。気にならなかったら捨てて。水季の人生は終わったけど、この子(海)の人生なんて始まったばかりなんです」
夏 「なんで、僕に?」
(朱音は、海の母子手帳に挟み込まれていた中絶の承諾書を夏に見せる)
朱音 「一度はこうしようとしたことを忘れないために、ずーっともっていたんです。親でもなにを考えている娘だったのかわからないところがあって。
海の父親やりたいとか思わないですよね。わかります。水季が勝手に生んだ。
ただ、想像してください。この7年の水季のこと。今日1日だけでも」
海は「夏くーん」と手を振って、朱音と津野に手を引かれてさりながらも夏を振り変える。