「夏が好き」「海が好き」
そして、しばらくして、海が突然夏の部屋にやってくる。「ここに来るのは何度も練習した。今日はひとりで来た」
「これ見る」と海が夏に手渡したのは、水季のスマホ。夏が寝起きの水季を撮影していた。水季は「春夏秋冬のうち、わたしは夏が好きだぁー」と。
夏が葬儀場でイヤホンを使って海に見せたスマホの映像が音声をともなって流れる。
「わたしは海が大好き!海が大好き―」と、水季が叫んでいた。
「お終い」という夏。「ママは終わっちゃったの?」と尋ねる海。
夏 「ママは死んじゃったんだよ」
海 「死んじゃうとどうなるの?」
夏 「わかんない…」
海 「夏君は海のパパなんでしょ。夏君、海のパパいつはじまるの?」
ドラマのタイトル「海のはじまり」の謎が明らかになる。
新たな時代を作る脚本家・生方美久
本作は、第1話から第4話までの見逃し配信の累計再生回数が、ビデオリサーチによると、7月29日時点で2000万再生(TVerとフジテレビの有料配信・FOD)を記録した。TVerにおける第1話の再生回数は600万。これまでTVerで配信された全ドラマの第1話における配信開始後8日間再生数の最高記録を塗り替えた。
映画監督の小津安二郎作品は「小津調」と呼ばれる。北野武監督の作品は基調となっている「キタノ・ブルー」である。
若手脚本家の生方美久の一連の作品は、「生方調」といってもよい青春ドラマの新領域だと思う。過去の優れた青春映画と比べると、例えば「君に届け」(熊澤尚人監督、2010年)はひたすら思いが相手に伝えようとする正統派ともいえる。「桐島、部活やめるってよ」(吉田大八監督、2012年)は、青年の男女の気持ちのすれ違いを描いて、これも正統派である。
「生方調」は、ひたすら愛を求めるのでもなく、青年の愛が成就するために幾多の困難が押し寄せる。また、根底には、現代の青年の孤独がある。