「いちばんすきな花」(フジテレビ、木曜よる10時)は、昨年秋ドラマシリーズのなかで大ヒットを飛ばした「silent」を手がけたスタッフのプロデューサー・村瀬健と脚本家・生方美久らが放つ傑作である。地上波の視聴率は相対的に低い水準からのスタートであるが、都会の孤独な青年たちが静かなセリフを交わしながら溶け合っていくことを予想させる。ドラマ史に残る名作となるだろう。
「silent」は民放の無料配信サイトTVerで7000万回数以上の再生回数を達成するとともに、ツイッター(現・X)のつぶやきでは世界トレンド1位の日を数日記録した。主演の川口春奈から耳が日々聴こえなくなったために去っていった、かつてのボーイフレンドの目黒蓮と再会して新たな愛を紡ぎだす正統派の純愛ドラマだった。
「ふたりになるのが苦手」な4人
「いちばんすきな花」では、塾講師の潮ゆくえ(多部未華子)と幼馴染の佐藤紅葉(神尾楓珠)はフリーターを続けながらイラストレーターを目指している。新潟出身のふたりは東京で交流があるわけではない。
ゆくえは勉強ができて学校の教員になるのも可能だったが、学校の集団行動になじめなかった過去から塾講師の道を選んだ。友人同士の付き合いでカラオケをともにしていた赤田鼓太郎(あかた・こうたろう、仲野太賀)が婚約者からゆくえと会うのを止めるようにいわれて友を失って失望している。
出版社員の春木椿(松下洸平)は恋人の小岩井純恋(こいわい・すみれ、臼田あさ美)と婚約して結婚後に住む新居に引っ越したばかりだったが、純恋に婚約を破棄されて傷心のなかにあった。子どものころから友達付き合いが苦手である。実家は母の鈴子(美保純)が花屋を営んでいる。
表参道の美容院で働く美容師の深雪夜々(みゆき・よよ、今田美桜)は中学校時代から美貌の持ち主であることから同性に嫌われた。職場の男性を誘って食事にいくと関係を迫られて辟易としている。
ゆくえ(多部)と紅葉(神尾)、椿(松下)、夜々(今田)は、「ふたりになるのが苦手」なのである。4人は偶然が重なって、椿(松下)の新居でテーブルを囲んでコーヒーを飲むことになる。