ハリスがウクライナ支援を主張するのは、西側主導の国際秩序を守るべきという信念を示すものである。そして、ハリスがバイデンの対イスラエル政策から距離をとろうとするのは、異論があればワシントンでの伝統的な考えをも打ち破ろうとする意欲を示すものだ。
副大統領としての4年間、ハリスはアジアに4回赴き、中国の強硬姿勢と経済的威圧を問題としてきた。こうしたアジア歴訪の機会に、ハリスはアジアの指導者との関係を構築してきたが、最も多く会談を重ねたのは日本の岸田文雄首相とフィリピンのマルコス大統領である。
ハリスは、中国の習近平国家主席とも、台湾の頼清徳総統とも面談している。エマニュエル駐日大使によれば、ハリスはバイデン政権のインド太平洋戦略の形成に早い時期から貢献してきたとのことである。
ハリスの副大統領としての発言や行動は、ハリスが目指しているのは米国の外交政策の革命ではなく、米国の強いグローバルな指導力を維持しつつ、人道の要素をある程度加えるという進化であることを示唆している。それは、大統領選挙を勝利に導くメッセージの基礎となり得るとともに、成功する戦略の確固たる基盤ともなり得るものである。
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外交政策の選挙への実際の影響
民主党内で「バイデンおろし」に難儀し、「もしトラ」よりも「確トラ」を口にする人が増えていた7月中旬とは情勢が異なり、現在、米大統領選挙はトランプとハリスとの僅差の戦いとなっている。そうした中、米メディアでは、これまで未知数であったハリスの外交政策に着目する論説がいくつも書かれているが、このロウギンの論考もそうしたものの一つである。
これらハリスの外交政策を論じる論説には、かなりの共通点が見られる。現在のバイデン政権の外交方針との比較で、ウクライナ、中国については継続性を認め、中東についてはイスラエルに対してより厳しい姿勢をとるとの見立てである。このロウギンの論説も同様の認識に立っている。
当面、ハリスにとって、外交政策自体は優先課題ではない。むしろ、外交政策における立ち位置によって大統領選挙での勝利の可能性を高めるかが重要である。その点、このロウギンの論説がハリスにとって外交政策上の方針が大統領選挙にどのようにプラスとなるのかに焦点を当てているのは興味深い。