コロナ禍から需要が回復するなかで生産の回復は遅れ、ガソリン価格の上昇を招き、22年3月に4ドル台に達した(図-1)。原油生産を増やし、ガソリン価格を冷やすための新鉱区入札と言われた。
加えて、ロシアのウクライナ侵攻により米国産液化天然ガス(LNG)への需要増が予想され、天然ガス生産増が視野に入ったこともあった。
短期的な解決策ではないが、実行せざるを得なかった。ガソリン価格高騰の前には気候変動問題はどこかに行ってしまった。
トランプは石炭への戦争を終わらせたのか
トランプは16年の大統領選キャンペーン中から石炭復活に触れた。時として炭鉱労働者がトランプと共に選挙集会のステージに立つほどだった。
12年の大統領選挙まで民主党候補支持だった全米鉱山労組(UMWA)は、16年の選挙では支持候補なしの立場に立った。当時のオバマ大統領が石炭火力へ厳しい姿勢を取っただけに組合はトランプに期待した。
17年3月、大統領就任直後のトランプは、ホワイトハウスの執務室に炭鉱労働者を招き入れ、環境規制緩和の大統領令に署名し、石炭への戦争は終わったと宣言した。
しかし、石炭は復活しなかった。米国の石炭生産量の推移(図-2)を見るとトランプ時代に石炭生産の減少に歯止めはかかっていない。
皮肉なことに、バイデン時代にはエネルギー危機による石炭輸出数量増があり、石炭生産量は増加した。
米国の石炭消費量の9割を消費する発電部門では、シェール革命により大きく価格が下がった天然ガスを利用する火力にシェアを奪われ、石炭火力の発電量と石炭消費量は減少を続けた(図-3)。
大統領が価格競争力で天然ガスに敗れた石炭を支援しても、市場の力を覆すことはできなかった。
UMWAは現在両党の議員を支持しているが、比率は民主党が多くなった。また、今年の大統領選では、既にどの候補も支持しないと明らかにしている。
UMWA委員長は、「トランプ時代に共和党からは石炭への戦争は終わったという発言があっただけだ。電力会社の石炭離れには何も影響がなかった。炭鉱で働く労働者は減少した」と恨み節を述べている。
8月14日の選挙集会では、トランプはエネルギー増産、インフラ整備、規制緩和によりエネルギー価格を少なくとも半分にすると主張したが、たとえばガソリンに課せられる連邦税は1ガロン当たり18.4セントなので、連邦政府ができることは限られている。