2024年10月10日(木)

World Energy Watch

2024年8月21日

選挙キャンペーンと環境・エネルギー市場

 大統領選のキャンペーンでの主張が大統領就任後直ちに実行されたこともあった。

 2017年に就任したトランプは、気候変動対策として合意されたパリ協定から離脱した。バイデンは21年の就任直後にパリ協定に復帰した。

 共和党と民主党の大統領のエネルギー・環境政策は大きく違っていたが、エネルギー生産のデータからは、大統領の政策が生産、消費に与えた影響は限定的だったように見える。

 政策が与えた影響が大きくないように見える理由の一つは、大統領になるとキャンペーン中の主張の極端な部分が必ずしも実行されないことがある。もう一つの理由は、連邦政府に市場の力を変えるほど大きな影響力がないことだろう。加えて中長期の政策は、政権交代で反故にされることも多い。

 たとえば、バイデンは、大統領就任前には気候変動対策として連邦政府所有地の石油・天然ガス鉱区の新規設定を中止するとしていたが、新規鉱区の設定面積の削減に留めた。産業と生活を考えれば、石油と天然ガス生産量の削減が現実に可能なはずがない。

 トランプは石炭産業を復活させ石炭への戦争を終わらすとキャンペーン中に主張していた。就任直後から石炭火力の排出規制を変更し、環境規制を緩和したが、市場の力には勝てず石炭産業の後退を食い止めることはできなかった。

 米国の人たちの考えは、支持政党により多くの政策について大きく異なる。両党の大統領候補もそれを踏まえて政策を打ち出している。特に気候変動とエネルギー問題では両党支持者の意見は大きく乖離している。

石油生産の削減を実行できなかったバイデン

 英米法の国では、地下鉱物の権利は原則地表権の所有者に与えられる。日本のような大陸法の国では地表権を保有していても地下鉱物の所有権はなく、政府が採掘権を与える(英国では金など一部鉱物は王室あるいは国のものとされる。資源国の豪州とカナダの鉱業権は大陸法に近い)。

 米国のロッキー山脈から西側では、連邦政府が依然多くの土地を保有している。その広さは全米の約10分の1、約100万平方キロメートル、日本の面積の3倍近い大きさだ。

 当然地下には多くの資源が眠っているが、連邦政府の持ち物だ。地下鉱物が存在する連邦政府所有地については、原則として入札により探査権、採掘権が与えられる。

 落札した事業者は、入札時の拠出金に加え、採掘量に応じ価格の一定パーセントの額をロイヤルティとして連邦政府に納入する。

 現在の米国の原油生産の約1割は、連邦政府所有鉱区から産出されているが、バイデンは20年の選挙キャンペーンで、気候変動対策として連邦政府所有地での新規鉱区設定を行わないと表明した。

 大統領就任直後21年1月に連邦政府所有地での新規リースを禁止する大統領令を出し、3月に米内務省土地管理局(BLM)に対し新規鉱区設定の見直しを指示した。共和党知事の州がこの措置を違法として訴訟した。

 結局、22年4月にBLMは、入札金額、ロイヤルティの引き上げと面積を従前より縮小したものの新鉱区の入札を発表し、バイデンの公約は反故にされた。背景には、コロナ禍と欧州発のエネルギー危機により米国でも石油・天然ガス価格が上昇したことがある。

 米国のレギュラーガソリン価格は、地域により大きく異なるが、全米平均では05年まで1ガロン(約3.8リットル)当たり1ドル台だった。それから上昇傾向になり10年代後半は2ドル台で推移した。20年のコロナ禍では外出禁止を受けた需要低迷により1ドル台まで下落した。


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