2024年11月22日(金)

インドから見た世界のリアル

2024年8月28日

避けてきた陸上、航空の演習を実施することにした

 中国が特に気にする可能性があるのは、これまでのインドの姿勢と違うからだ。インドは、QUADとの連携が中国を刺激しすぎることを懸念してきた。QUAD4カ国の協力が公の発言として提唱されたのは2007年の安倍晋三首相(当時)のインド国会での演説以降であるが、そのころの中国の軍事力の配置は、主に太平洋側にあり、インドが刺激しすぎなければ、インドを攻撃するように見えなかったからだ。

 しかし、その後、情勢が変わってきた。2010年代になると、中国のインド洋進出が活発化するだけでなく、印中国境においても侵入事件が急速に増えてきた。11年213回だった侵入事件数は、19年には663回になっていく。インドにとってQUADとの連携はより重要になっていった。

 それでも、インドの姿勢は慎重だった。もし中国が本気になってQUADをつぶしにかかるとしたら、最初にインドを攻撃する可能性がある。

 中国が日米豪を攻撃する場合、海を渡らなければならないが、インドは陸上から攻撃できる。それに日米豪は、条約で固く結ばれた同盟国で、簡単に切り崩せない。でもインドは、日米豪とそれほど強く結ばれていない。

 インドに対して、軍事的な圧力をかけ、日米豪と手を結んでも特にならないぞ、というメッセージを送れば、日米豪とインドを切り離すことができると、中国が信じてしまうかもしれない。だから、インドとしては、日米豪との軍事的な連携を深める際は、それがあまり目立たないように、2国間ベースでやるのがいいし、もしやるなら、印中国境を刺激しないように、海洋に限定する方がいい。

 そこでインドは、米印の海軍共同演習「マラバール」を徐々に変化させ、途中で日本を正式メンバーにし、何年か間を空けてから、次に豪州を加えてきた。そして、陸上や航空のような、印中国境に直接かかわりそうな共同演習をQUADすべて含む形で実施することは、避けてきたのである。

 ところが、中国はそんなインドの慎重な行動を尊重しなかった。そして、20年、大量の釘が出た鉄の棒や、青龍刀などを大量に調達、装備し、インドに大規模侵入、インドを襲撃したのである。

 中国側の死傷者はよくわからないが、インド側では死者20人、負傷者76人、つまり、合計で死傷者100人近く出す事件となった。それ以降、現在まで、印中両軍は国境地域でハイテク装備多数を大規模展開し、にらみ合ったままだ。

 このような環境において、インドの慎重さに変化がみられた。22年には、印中国境から100キロメートル(㎞)以内で、2度、米国と陸上の共同演習を実施した。そして、23年春には、米国のB1爆撃機を中国全土が爆撃できる飛行場に招き、空軍共同演習を実施した(詳しくは「印中国境の米印軍共同演習に日本が参加する意義」)。そして、その延長線上で、今回の「タラン・シャクティ」も企画した。

 この演習は、大規模すぎて1年遅れたものの、24年、QUAD全部と、NATO諸国の空軍機まで加えた形で、実施することになったのである。インドとしては、印中国境を念頭に、中国に対し、強いメッセージを送りたいのだ。


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