コメの需給見通しが狂う本質的な原因
農水省の事務次官OBがコメの生産者を前にした講演会で「農水省のコメ需給見通しが外れるのはもはや伝統的」と称していたが、その例に漏れず23/24年(23年7月~24年6月)の需給見通しが大幅に外れた。それは外れたというレベルではなく、狂った。
具体的に数字を示すと、今年3月に開催された食糧部会では23/24年の需要量を681万トンとの見通しを発表したが、7月30日に開催された食糧部会ではそれよりも21万トンも多い702万トンの実績があったと公表した。わずか4カ月の間で需要量を21万トンも見誤る需給見通しなど公表しない方が良い。
その理由について農水省ではインバウンド需要などを要因としてあげているが、3月の食糧部会の後に筆者がコロナ明けでインバウンド需要が回復すると見込まれるが、その需要をどう見ているのか質したのに対して農水省は「織り込み済み」と答えていた。しかも、いかに訪日外国人が増えても平均9日程度しか滞在しない外国人が20万トンものコメを食べるわけがない。
また、コメ不足の要因として、高温障害による精米歩合の低下を理由に挙げているが、このことは23年産米の検査がほぼ終えた昨年末にはわかっていたことである。取ってつけたような理由に過ぎない。
これだけ需給見通しが狂う本質的原因は、コメの需給を非主食用と主食用と分けて策定して公表しているからである。冒頭にコメ加工食品業界が原料米逼迫の窮状を農水省に訴えたことを紹介したが、これら業界の使用する原料米は非主食用米として区分される。しかし、加工原料用米は品位が低くて価格が安い特定米穀(いわゆるくず米)と称されるものの、価格の居所によっては主食用にも使用されるため、一様に区分できない。
さらにややこしいのは、農水省は主食用か非主食用か区分するに際して恣意的に区分している。例えばパックご飯は主食用の区分に入っているが、冷凍米飯は非主食用の区分に入る。冷凍米飯の需要量がいかに増えようとも農水省の策定では主食用の需要が増えたことにならない。また、輸出用米も「新規需要開拓米」という括りの中に入っており、主食用分野には加えられない。輸出用米が増えても主食用米の需要が増えたことにはならない。
これら主食用から区分されたコメには加工用米や新規需要米という名目で助成金が支給されるため新たな利権が発生するだけでなく、用途限定米穀という法律まで作り、流通を規制しているため農水省の認可が必要になる。用途以外に使用すると厳しい罰則規定があり、需要者は自由にコメを使えないという弊害を生んでいる。
規制があることによってコメの用途が拡大せず、さらに生産量を減らして米価を上げることをコメ政策の根幹に置いているため需要そのものも縮小、産業として育たない。米価を上げるために供給量を絞り、それにより市場が縮小し、さらに供給量を絞るという負のスパイラルが続いているというのがコメ業界の実際の姿である。
こうした政策を続けていると生産から流通、実需まですべて死に体になってしまう。すでに最も根幹と言うべき生産分野の衰退化が始まっており、令和のコメ不足もその兆しと捉えることもできる。