これからの社会に求められる「倫理的創造性」
創造性と同時に、コンピュータ技術にかかわる倫理についても考えなければなりません。というのもコンピュータを含めた技術の社会的影響があまりにも大きくなってきており、単に作りたいものを好き勝手に作ることが許されなくなってきているからです。コンピュータについても、コンピュータ技術を介して社会をよくする倫理が欠かせなくなっています。
倫理は、人々の間にある秩序や歩む道、習わしのことをいいます。「倫理」という漢字は、「倫」と「理」からできています。「倫」は、「なかま、秩序」を意味します。「理」は、「ことわり、すじ道」のことで秩序の意味を強めています。このことから、倫理を考えることは、私たちの秩序をどのように形成していくかを考えることだといえるでしょう。
私たちは、たった一人で生きているわけではありません。他者と交わらずに、たった一人で生活や仕事をしているわけではありません。そしてテクノロジーと無縁でいることも難しいといえます。
どのように他者と接するか、どのようにテクノロジーを社会のなかに位置づけ社会生活を営んでいくか。こうしたことを考えつづけることこそが倫理的な行為であり倫理的なプロセスなのです。
よく情報モラルという言葉が使われます。日本の教育現場では、40年ほど前から「情報倫理」ではなく「情報モラル」教育が展開されてきました。
「SNSで友だちの顔写真を勝手に発信してはならない」「スマホを使いすぎてはならない」などと「……してはならない」ことばかり強調してきました。ネットいじめや犯罪被害など、負の側面ばかり強調してきました。生活指導の一環として、しばしば体育館や講堂に児童・生徒を集め、外部の講師が講演します(坂本ほか 2020)。
しかしそうした戒めとは違い、倫理は、「よいこと」と「悪いこと」との範囲を考えたり、よいことのためにするべき義務をも含んだ幅広いことを指しています。社会の規範はどのようなものか、それにはどのような根拠があるのか、これからどのような社会規範を作っていくのかを考えることです。
したがってAI倫理でいえば、よりよいAIとはなにか、よりよいAIの利用とはなにか、どのようなAIの開発・運営が社会をよくすることにつながるのか、AIを介して社会をよくするにはいかなることが求められるのか、AIが組み込まれた社会のガバナンスはどのようにしていくのかといったテーマも含まれます。
私たちの社会は、すでにAI社会です。自分自身の創造性を深く考えると同時に、創造性を発揮してAI社会をよりよいものにしていく必要があります。いわば、私たちに求められているのは創造的な社会がこれまで以上に残酷にならないようにするための倫理的創造性なのです。
・科学技術庁監修(2013)『21世紀への階段』復刻版、弘文堂
・坂本旬・芳賀高洋・豊福晋平・今度珠美・林一真(2020)『デジタル・シティズンシップ』大月書店
・鈴木聖子(2023)「AIに〝役〟を奪われる」『ITmedia』(2024年5月31日アクセス)
・デューイ、ジョン(2004)『経験と教育』(市村尚久訳)、講談社
・Guglielmo, C. (2023) “CNET Is Testing an AI Engine. Here's What We've Learned, Mistakes and All”(accessed 2024-05-31)
・SAG-AFTRA (2023) “TV/Theatrical Contracts 2023 Summary of Tentative Agreement”(accessed 2024-05-31)
・Writers Guild of America (2023) “Summary of the 2023 WGA MBA”(accessed 2024-05-31)