米マスコミの間では、トランプ陣営が軍規を無視してまで同基地内での録画にこだわった背景には、近年、トランプ氏が退役軍人やその家族の間で支持を失いつつあるからだ、との見方がもっぱらだ。
離れていく軍人関係者の支持
最新の世論調査結果に、その傾向が見られる。
去る4日、政治メディア「The Hill」が調査機関「Change Research」と軍関係者を対象に合同で実施した調査結果によると、トランプ氏が退役軍人での支持で51%、 現役米兵の間で49%だった。これに対し、ハリス氏に対する支持はそれぞれ41%、44%。また、軍家族の間では、トランプ氏47%、ハリス氏45%で、いずれにおいても、トランプ氏がハリス氏を上回っている。
この結果自体を見る限り、軍人関係者の間でのトランプ氏の人気は依然高いことを示している。
しかし、米軍専門家たちの見方はこれと少し異なる。むしろ冷ややかだ。
なぜなら、トランプ氏が大統領に就任する前までの16年時の調査では、共和党に対する退役軍人支持率が、民主党を19%も上回っていたが、その後トランプ氏登場以来、その差が9%も縮まっているからだ。
同様に、現役米兵の間で8年前当時に民主党より19%も上回っていたリード差がトランプ氏の下で5%に、軍家族の間ではさらに12%差からわずか2%差にまで10%も下落していることも明らかになった。
また、「The Hill」の記事によると、16年大統領選でトランプ氏に投票した軍人関係者のうち、53%が「今回トランプ候補に投票しない」と回答、その理由として「彼のこれまでの退役軍人、現役米兵、軍家族に対する発言、態度、政策」を挙げているという。
筆者は、共和党のレーガン政権当時(1981~89年)、新聞社のワシントン特派員だったが、当時の軍関係者の大統領に対する支持率が80%程度にまで達していたころと比較しても、昨今の対トランプ支持率の低下ぶりは歴然たる感がある。
将官たちが続々と「トランプ不支持」を表明
世論調査結果のみならず、最近、軍関係者しかも、かつて歴代共和党政権を支えた制服組のトップクラスの将官たちの間での「トランプ離れ」が加速しつつある。
去る9日、米軍高級将校たちの全米組織「National Security Leaders in America」は、陸空海将軍10人による「公開状(open letter)」を掲載。この中で、トランプ候補について「わが国家安全保障およびデモクラシーにとっての脅威」とする一方、「ハリス氏のみが最高司令官となるのにふさわしい人物」だとして、ハリス候補への投票を呼び掛けた。
10人の中には、ジョージ・W・ブッシュ政権下で国土安全保障省首席補佐官を務めたスティーブ・アボット退役海軍大将のほか、ラリー・エリス退役陸軍大将、ロイド・ニュートン退役空軍大将ら軍エリート多数が名を連ねている。
続いて翌10日には、米陸軍第二歩兵団司令官を務めたラッセル・オノレ退役少将が米誌「Newsweek」にトランプ候補を糾弾する「公開状」を掲載、その中で「大統領の資格なし」として以下のように指摘した:
「わが国のために戦いわが国のために殉じた男女兵士たちに対する侮辱という点では、ドナルド・トランプ元大統領は独り舞台に立ち続けている。彼はわが退役軍人同志たちや戦死者を慰霊する機会ごとに礼を失する言動を繰り返してきた。最近のアーリントン墓地での振舞を例にとってみても、何ら驚くに当たらない。
大統領在任中、第二次世界大戦で史上最大の作戦として知られる連合軍のノルマンディ上陸作戦記念式典に大統領として各国首脳と列席した際も、戦死者慰霊墓地に出向くことを拒否するなど、米国最高司令官としての責任と自覚を欠いてきた……彼は国のために尽くすことを全く知らず、犠牲となった戦死者たちの気持ちを無視し、自らの選挙広告作成のためだけにアーリントン墓地を利用した。
私は過去37年間、国のために身をささげた一人の軍人として、今回の大統領選挙では、トランプにだけは票を投じないようすべての同志たちに要請する」