2024年10月6日(日)

BBC News

2024年9月30日

オーストリアで29日、国民議会(下院)の選挙があり、極右の自由党が第1党となる見込みだ。ヘルベルト・キクル党首は、新しい時代の扉が開いたと支持者らに話した。

開票率100%での自由党の得票率は28.8%と、カール・ネハンマー首相率いる保守・国民党の26.3%をわずかに上回った。しかし、過半数には届かなかった。

欧州ではこのところ、各種選挙で極右勢力が躍進している。キクル氏は、「歴史の一部」をもたらした有権者の「前向きな姿勢と勇気、信頼」を称賛した。

自由党は以前にも連立政府の一員となったことがある。しかし、第2党の国民党は、キクル氏が率いる政権への参画を拒否している。

ネハンマー首相は、「陰謀論を崇拝する人物と一緒に、政権を樹立することは不可能だ」と述べている。

今回の選挙では、移民および亡命希望者という二つの問題に加え、低迷する経済やウクライナ戦争といった議題が争点を占めた。投票率は78%と高かった。

自由党は定数183議席の下院で約56議席を確保する勢い。保守党は52議席、第3党の社会民主党は41議席を獲得する見込み。

有権者分析によると、35~59歳の人々が極右に投票する見込みが最も高く、男性よりも女性の方がわずかに多かった。

オーストリアの地図の半分が自由党のイメージカラーの紺色に染まる中、同党のミヒャエル・シュネドリッツ書記長は「オーストリアの男女はきょう、歴史を作った」と語ったが。一方で、同党がどのような連立政権を作ろうとしているのかについては明言を避けた。

キクル党首は公約で、「オーストリア要塞」を築き、安全と繁栄、平和を取り戻すと約束していた。また、隣国ハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相と緊密に連携している。

社会民主党のアンドレアス・バブラー党首は、オーストリアはハンガリーと同じ道を踏んではならないと警告した。

キクル氏はまた、「フォルクスカンツラー(人民の首相)」になるとも語っていたが、これは一部のオーストリア人にとって、ナチス・ドイツの指導者アドルフ・ヒトラーへの形容を連想させる表現。

自由党は1950年代に元ナチス党員によって設立された。今回の選挙の2日前には、同党の一部候補者が、葬儀でナチス親衛隊の歌を歌う姿が撮影されていた。

自由党の勝利が明らかになると、議事堂前には反ナチスの横断幕を掲げた少数のデモ隊が現れた。

対立を招くことの多いキクル氏にとって、連立は複雑な仕事になりそうだ。

中道左派の社会民主党と緑の党、そして中道派の「新オーストリア・自由フォーラム(NEOS)」はいずれも、極右との連携を拒否している。

自由党が連立を組む可能性があるのは保守派のみだが、そのためにはキクル氏が首相になることを拒否している国民党に対する解決策を見つけなければならない。

昨年11月のオランダ下院総選挙で極右・自由党が勝利した際、同党のヘルト・ウィルダース党首は首相への立候補を取り下げることで、他の3党と連立にこぎつけた。しかし、キクル氏はオーストリアを率いることに意欲的で、国民の「しもべとなり、保護者となって」行動すると約束している。

政治アナリストのトーマス・ホーファー氏はBBCの取材で、政権樹立を監督する立場にあるアレクサンダー・ファン・デア・ベレン大統領が、キクル氏に「連立政権樹立の直接委任状」を与えるかどうかは、決して明らかではないと話した。

また、最新の予想が正しければ、保守派の国民党は理論的には社会民主党と連立を組む可能性があり、リベラルなNEOSや緑の党を引きつける可能性もある。

一方で、ネハンマー首相が国民党内から、連立拒否を取り下げるよう圧力を受ける可能性も同様にある。自由党のある有力者は、このような歴史的大敗を喫したのであれば辞任すべきだと述べたが、国民党のクリスティアン・ストッカー書記長はこれを否定した。

ファン・デア・ベレン大統領は過去に、欧州連合(EU)を批判しロシアのウクライナ侵攻を非難しなかった自由党に難色を示していた。同党はオーストリアの中立性を理由にEUの対モスクワ制裁に反対しており、昨年ウィーンで行われたウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の議会演説では、多くの同党議員が退席した。

欧州ではこのところ、各種選挙で極右勢力が選挙で相次ぎ躍進している。

イタリアのジョルジャ・メローニ首相は2022年以降、極右政党「イタリアの同胞」の党首として右派連合を率いている。ドイツで難民排斥を掲げる極右野党「ドイツのための選択肢(AfD)」は今年9月、東部のテューリンゲン州の州議会選挙で第1党となった。フランスでは、6月の欧州議会選挙で極右「国民連合」が勝利を収めた。

キクル氏とは異なり、イタリアのメローニ首相はロシアの全面侵攻に直面するEUのウクライナ支援を全面的に支持している。

独AfDのアリス・ヴァイデル共同党首はキクル氏の勝利を祝福し、2人で一緒に写っている写真を投稿した。仏国民連合のマリーヌ=ル=ペン氏は、欧州各地での投票に続き、「国益を守るためのこの大きなうねり」は「あらゆる場所での国民の勝利」を確認するものだと述べた。

オランダのヘルト・ウィルダース氏は、時代は変わりつつあり、「アイデンティティー、主権、自由、そして不法移民と亡命(受け入れ)の廃止」こそが、何百万人もの欧州人が切望していることだと語った。

キクル氏は、オーストリア国民の多くが移民拡大を懸念していることに加え、新型コロナウイルスのパンデミックに対する政府対応に怒っていることを、最大限に利用した。また、COVID-19に対する根拠不明な「治療」法に関する陰謀論を好んで取り上げた。

キクル氏と自由党にとって29日の選挙勝利は、スキャンダルの影響で第3党に甘んじた前回選挙からの大きな回復を意味する。

自由党は2017年から国民党のセバスティアン・クルツ連立政権に参加していたが、2019年に党幹部のハインツ=クリスティアン・シュトラッヘ元副首相の利益供与スキャンダルが発覚。当時内相だったキクル氏を含む自由党所属の全閣僚が辞任し、連立が解消された。クルツ政権は同年、首相に対する不信任案が可決されて解体し、総選挙が行われた。

(英語記事 Far right in Austria 'opens new era' with election victory

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cgmg24rggmeo


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