かつて「鉄は国家なり」とも呼ばれた。米国を象徴する鉄鋼企業が外資に買われることへの反発もあるだろう。
「鉄は産業のコメ」でもある。鉄がなければ、自動車も、ビルも、橋も作れない。日本も第二次世界大戦直後傾斜生産政策を採用し、鉄と当時のエネルギーの中心だった石炭に生産資源を集中した。
米国内に反対の声はあるが、買収によりUSSと日本製鉄の米国事業は脱炭素の時代に発展するのではないか。私たちが脱炭素の時代に心配しなければいけないのは日本国内の鉄鋼産業の将来だ。
日本製鉄のUSS買収の経緯
日本製鉄がUSS買収を発表したのは、23年12月だった。それからの経緯を簡単に以下にまとめた。
23年12月18日 日本製鉄とUSSは、日本製鉄がUSSを141億ドル(負債を含めると149億ドル〈約2兆2000億円〉)で買収することで合意したと発表した。一株の購入価格は12月15日の価格39.33ドルを約40%上回る55ドルだった。この報道によりUSSの株価は49.59ドルに高騰した。
23年12月21日 ホワイトハウスは、国家経済会議(NEC)のラエル・ブレイナード委員長の声明を発表し、「USSは国家安全保障に重要な米国鉄鋼生産の中核企業であり、親密な同盟国の企業による買収でも対米外国投資委員会(CFIUS)の審査対象になりえると大統領は考えている」と慎重に審査を行う意向を示した。
24年2月2日 買収案の発表直後から反対の姿勢を示しているUSWが次の声明を発表した。「鉄は国家の安全保障、重要インフラに欠かせない。USWの組合員は世界最高水準の製品の製造に誇りを持っている。不幸にも日本製鉄とUSSの契約は国家と組合員を困惑させている。本日バイデン大統領から支援するとの確約を得た。バイデン大統領は常に労働者と組合の友人である」
24年2月26日 USWが日本製鉄との間で守秘契約を締結したと発表。USWの反対により政治問題化しているが、これによりUSWが買収に関し態度を軟化させるとの観測もでた。結果として大きな進展はなかった。
24年3月14日 バイデン大統領が以下の声明を発表。「米国鉄鋼労働者が力を与えている米国の強い鉄鋼企業を維持することは極めて重要である。鉄鋼労働者に私が後ろにいると伝えた。USSは1世紀以上の間、米国の象徴的な鉄鋼会社だ。国内で保有され操業が維持され続けることが必須だ」
24年4月12日 USSの特別株主総会が開催され、98%を超える株主が投票。うち71%が買収提案に賛成した。
24年9月4日 日本製鉄は、「買収がもたらす利益を確実なものとし、USSが米国産業界において米国の象徴的な企業であり続けるために策定した」とするUSS買収後のガバナンス方針を発表。それまでに発表していた投資計画に加え、USS経営陣の中枢メンバー、取締役会の過半数を米国籍とするなど新方針を追加した。
24年9月17日 米国メディアは、日本製鉄が要請したCFIUSによる審査の再申請が認められたと報じた。再申請により、米政権の判断は11月の大統領選以降になる公算が大きくなったとされる。