ブナもそうである。下刈ではササを刈るので、ブナが更新しやすい。皮肉なことに、造林地はブナの適地なのである。したがって、植えたスギをどんどん追い越していく。しかし、ここでもブナは刈り払われてしまう。スギもブナも共存させればいいのに。
筆者が東北森林管理局の計画部長だったころ、造林現場に行った。広葉樹ばかりかたまってスギが見えない個所を作業員が刈り払うのを見て、「そんなところは刈り払わなくいい。広葉樹を残してください」と言ったら、その作業員は「前の人は潔癖に刈り払えと言っていた。偉い人の話は来るたびに違う」と言った。
これには1本採られた。前の人は硬直的な技術者だったのだろう。現場で働く人たちのせいにせず、上役から技術教育をやり直さないといけない。
下刈不十分な不成績造林地の可能性
植栽した後、まったく下刈をしないという方法もあるかも知れない。そう思って筆者は、無下刈の試験地をつくった。
写真2は実はその試験地のものである。スギと広葉樹が競合していると見るか、共存していると見るかによって、対応が異なる。
筆者は、このスギは枯れることがない、共存してスギも広葉樹も収穫できるようになると予見していた。まあそれは50年後でないとわからない。
筆者の予見のもととなったのは、不成績造林地と言われる個所である。植えたけれども直庸作業員の下刈作業の能率が悪くて、やり残してほうり投げてしまった個所である。労働組合はことあるたびに不成績造林地を取り上げて、その解消を求めた。半分は自分たちの責任なのによく言うのだ。
不成績造林地の中に入ると、植えたスギ・ヒノキも元気とは言えないが、結構残っているものだ。目利きの伐採業者に言わせると、広葉樹と混交した造林木は、木目が緻密で枝も落ちて無節材が採れるので、高く入札すると言っていた。
実に不成績造林地こそ怪我の功名だったのだ。多様な樹種で構成されていて、動物相も多様性があり、環境面での評価も高い。もっとも材質を向上させるには、長伐期として、長い目で成長を見守る必要がある。
これをもって無下刈の試験をしようとしたのだが、後任の署長が広葉樹に負けかかっているスギを見て可哀想に思い、下刈を命じたというのだ。国有林には造林地はいくらでもあるのだ。その中の一部で林業技術を拓く試験を許容できなかったのが残念だった。
民有林の役にも立つのだから、技術開発は国有林が損をしてでも率先してやるべきであろう。国有林の技官がこんな狭い了見でよいのだろうか。