国内のデモ活動に連邦の正規軍を投入したいとトランプ氏は主張している。これに対しては、第一次政権末期に当時のエスパー国防長官が抗議の辞任をしているが、もしもトランプ氏が大統領職に戻って、出動命令を出した場合には米国は大混乱に陥るであろう。自由と民主主義を守り、国民を守るべき存在である軍に、国民に対して銃を向けて政治的自由を奪えというのは、軍の存立に関わる問題だからだ。
このように深刻な分断をどう乗り越えていったらいいのだろうか?
大切なのは、有権者が、自分たちの利害を中心とした当事者意識を持つことだ。例えば、雇用や物価など生活に影響する問題から発想して、地に足のついた形で自分の投票行動を考えるのであれば、そこにはイデオロギーの熱狂や激しい中傷合戦は必要なくなる。
リベラルの側は、グローバリズムに最適化した知的産業を代表し、未来へ向けた理想の実現に燃えている。そこには農場や工場で働く労働者の現実感覚は薄い。一方でトランプ支持の中核には、引退した年金世代や成功した自営業者が多い。彼らは生活を確立しており、切羽詰まった政策への関心はない。だからこそ、人種や宗教などのアイデンティティーにこだわり、憎悪に身を委ねる。
であるならば、民主党は健全な労働者の党に、共和党は納税者の視点の党にと、それぞれの党の原点に戻ることが肝要だ。それが分断を緩和する道となるに違いない。
分断の影響は私たちにも
日本にできることとは?
日本は、実は分断という点では米国よりも長い歴史がある。冷戦期にはソ連の影響下にあった野党が社会主義を掲げる中で、民主主義と自由経済を掲げる与党との対立は、現在の米国の分断とは比較にならないものがあった。最近では、立憲民主党の野田佳彦新代表が現実主義に向かっているのは評価できるが、依然として野党の統治能力は与党に対抗できていない。そして、往々にして野党は批判のための批判を中心に活動し、有権者もそれを支持する。その結果、与野党の間では「愚か者」「アベ政治を許さない」「劣等民族」などの罵倒合戦が続いている。これでは米国の分断を笑う資格はない。
その一方で、安保面などで米国に依存する日本は、米国の分断が直接影響するのは避けられない。極端な孤立主義、自国中心主義に陥れば日米安保体制が崩れて極東の平和は揺らぐ。サプライチェーンの再構築を行おうとしても、米国の政治家が自国世論に迎合し、日本企業における米国での活動が制限されては困る。
これに対しては、野球界で大谷翔平選手が、エンタメ産業では俳優の真田広之氏が奮闘しているように、政治や軍事、科学技術、社会運動などの分野でも顔の見える個人がダイレクトに米国世論に訴えかけることも必要だろう。技術立国や平和志向の国家ということも、真摯な姿勢で理解を求めていく必要がある。その意味で、日米の絆という点において、できることはまだまだある。