2024年10月21日(月)

民主主義は人々を幸せにするのか?

2024年10月21日

 米国では民主主義の危機が叫ばれて久しい。何が危機なのかというと、まず選挙結果を信頼できないという言動の横行がある。選挙は民主政治の中核であり、結果を受け入れられなければ民主主義は機能不全に陥る。次いで暴力の問題がある。2021年1月6日の議事堂襲撃事件が典型だが、この夏に2回も発生した大統領候補への暗殺未遂事件も民主主義に対して深刻な脅威を与えた。

2021年1月6日に勃発した米連邦議会議事堂襲撃事件は「分断」を象徴するものとして世界に大きな衝撃を与えた。今回の大統領選はいかに……(BRANT STIRTON/GETTYIMAGES)

 こうした問題については、米国の場合は15年に大統領選に名乗りを上げたトランプ氏の影響が大きいとされている。確かに同氏の言動と、大統領選の勝利と敗北の歴史が米国の「分断」を象徴しているのは確かだ。だが、トランプ現象は分断の結果ではあっても、原因ではない。

 20世紀末までの米国では、このような分断はなかった。確かに民主党は福祉国家を目指して大きな政府を志向しており、これに対して共和党は小さな政府を理想としていた。軍事外交に関しても、世界の警察官を自認した民主党と、名誉ある孤立を志向した共和党の間には差はあった。けれども、日本とは違って両党ともに政権担当能力があり、また党派を超えた妥協も数多く見られた。当時の政治家は反対党の意見を聞く「耳」を持っていたのである。

 有権者も同様であり、国政においては民主党を支持しても、地方選挙では共和党に財政再建を委ねるような投票行動が見られた。

 分断の契機は、01年9月の同時多発テロであった。テロに被災したのはニューヨークをはじめとした東部であり、その世論は報復攻撃には慎重だった。ところが、被災とは無関係の中西部から「草の根保守」の声が広がって主戦論が拡大、その結果、ブッシュ政権はアフガニスタンだけでなくイラクでの戦争遂行にまで進んだ。そんな中で、経済を再建するには平和が必要だというリベラルと、米国本土が攻撃された以上は、徹底した報復が必要だという保守の間に深刻な分断が生まれた。

 09年に登場したオバマ政権は、この分断がより深刻化する「兆候」を感じていたと思われる。だからこそ、オバマ氏はアフガンとイラクでの戦争遂行を継続した。さらにリーマン・ショックの影響に対してオバマ氏は公的資金の投入を躊躇しなかったし、緩やかな景気回復を徹底して支えた。この時期には、分断は少し異なる形となった。財政規律の立場から公的資金投入に強く反発した「茶会」という右からの異議申し立てが政権を揺さぶったのであった。


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