NHKスペシャル「ワーキングプア」が社会に提起したもの
勧善懲悪の報道に一石を投じたのが、06年7月に放映されたNHKスペシャル「ワーキングプア」である。以下は、番組紹介のリード文である。
「ワーキングプア」は、豊かであるとされてきた現代日本において、静かに貧困が広がり続けている現状を描き出した。当時、流行していた言葉に「自己責任」という言葉がある。豊かな日本で生活に困窮するのは、それまで努力してこなかった結果である。だから、その結果として生じる様々な困難は個人の問題としてその本人が引き受けなければならない。
番組は、こうした価値観に疑問を呈したのである。
この時期を契機として、生活に困窮する人々を追うルポルタージュが増えていく。
日本テレビが07年に放映した「ネットカフェ難民 漂流する貧困者たち」は、流行語大賞の候補となるなどの反響があった。なお、同作品のディレクターは前述の水島さんであり、著書も発刊されている(水島宏明『ネットカフェ難民と貧困ニッポン』)。
「福祉事務所バッシング」と面接時対応
「ワーキングプア」が放映された同じ年、06年11月には、生活保護の運用に大きな影響を与えた番組が放映される。報道ステーションが制作した「弱者切り捨ての格差拡大“ヤミの北九州方式”とは」である。
番組では、各都市で生活保護の利用世帯が増えるなか、北九州市だけが横ばいの状態であることを問題視。これを支えているのが申請件数を押さえるための目標数値(ノルマ)の存在であるとした。
番組では、弁護士などの有志が開いた相談会において、申請書さえもらえずに追い返されたという女性の姿が映し出された。同時期、北九州市では生活保護の申請に至らず、あるいは生活保護を辞退した直後に孤独死(一部報道では“餓死”とも)した市民が相次いでいた。
事態を重くみた厚生労働省は、「生活保護は申請に基づき開始することを原則としており、保護の相談に当たっては、相談者の申請権を侵害しないことはもとより、申請権を侵害していると疑われるような行為も現に慎むこと」というルールを明文化するなどの対応に追われることになる(一連の経緯は、拙著『生活保護vsワーキングプア 若者に広がる貧困』に詳しい)。