2024年10月21日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年10月21日

 所得税や法人税の減税を賄うためには、PIIEの別の推定によれば、全輸入品に対して50%の関税を課しても、推定される5.8兆ドルのコストを賄うには不足する。実際には、高関税は輸入業者に代替供給元への転換を促し、輸出業者は他の市場へ転換しようとする。しかし、トランプは「オール関税政策」によって所得税の必要性を排除するという考えを好んでいる。

 このような考えは、貿易が確立されておらず、国家がより小さかった数世紀前の重商主義的な世界経済には相応しかった。しかし、トランプの政策は、赤字とインフレを引き上げることになるだろう。安い食料品は手に入らなくなる。

 実際には、トランプがどれだけ公約を実行するかに掛かっているが、トランプは米国に関税の壁を築くことを自分の選挙運動の中心に据えている。多くの有権者がそれを信じている。問題は、彼の(関税)万能薬の政策が米国民、米国経済、そして世界にとって毒薬になるということだ。

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戦後の歴史的発展を理解していないトランプ

 この社説は、トランプは関税を万能策と考えているが、それは次の理由で、「米国民、米国経済、そして世界にとって」毒薬になると主張している。

 第一は、関税は消費者に転嫁され、PIIEによると平均的な家計には年間2600ドルのコスト増になる。第二に、コスト増は雇用に悪影響を与え、相手国から報復を受けて(その可能性は一層強くなっている)米国の輸出の減少を招く。第三に、関税収入により所得税が不要になることをトランプは目論んでいるようだが(減税の財源にも当てたい)、それは「1930年以前の世界のことで、貿易が確立されておらず、国家がより小さかった数世紀前の重商主義的な世界経済に相応しいものだった」、トランプの政策の結果は赤字とインフレの引き上げになる。

 上記の社説が言っていることは正論だ。関税主義は、特に包括的な関税は時代錯誤で、世界化の進んだ今日の経済原理に反する。さらに、戦後の世界経済の発展とレジームの発展を無視する夢想の議論である。

 また、それは世界貿易機関(WTO)の世界に代表される戦後の国際ルールと協調主義をないがしろにする。アナーキーの世界への復帰になる。

 トランプは、戦後の歴史的発展を理解していない。交渉とルールやグローバルガバナンスによって問題を解決していくことが全ての者の利益になる。


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