空飛ぶタクシーで
移動時間を大幅に縮減
スマートモビリティー戦略を推進しているのは実はドバイだけではない。アラビア半島東南部のペルシャ湾に面したUAEにはアブダビ、ドバイ、シャルジャなど7つの首長国がある。アブダビも23年10月に「SAVI(スマート自動運転車産業)クラスター」と呼ぶモビリティー技術の開発拠点を開設した。今年4月には国際イベントの「アブダビ・モビリティー・ウィーク」を開催、世界初の自動運転車によるF1レース「A2RL」も実施した。
アブダビの先端移動技術開発を担う「統合交通センター(ITC)」は、中国の自動運転技術ベンチャー、WeRide(ウイライド)と組み、21年から自動運転サービスの実証実験を開始した。高速道路を最高時速140キロで走れ、月間利用件数は4000件以上に上るという。現在は8台が走行中だが、近い将来に100~200台に増やす計画だ。
スマートモビリティーを実現するには精緻なデジタル地図や位置情報を把握する技術も必要だ。ITCは今年4月、東京大学発ベンチャーのLocationMind(東京都千代田区)と提携、交通データを分析することで新たな情報サービスを構築する戦略だ。共同創業者のモー・バトラン氏は「人口動態や交通量などを分析するうえでUAEは極めて興味深い場所」と指摘する。
ITCは空飛ぶタクシーについても米ベンチャー企業のジョビーとアーチャー・アビエーションの2社と提携、ドバイと同様、26年からサービスを開始する。ドバイとアブダビの間は車で約1時間半かかるが、空飛ぶタクシーが実現すれば、約30分で移動できる見通しだ。
日本の技術に目を転じてみると、既存の鉄道技術ではUAEに貢献し、自動車もITS世界会議で注目されたが、自動運転や空飛ぶタクシーなど最先端技術では日本の存在感は高いとはいえない。
トヨタ出身の福澤知浩氏らが設立した空飛ぶクルマのベンチャー、SkyDrive(愛知県豊田市)が昨年3月、ドバイでのサービスを目指し、カナダの先端航空輸送運用会社、VPortsと提携したが、「まだ試験飛行には至っていない」(福澤氏)という。
UAEが世界の最新技術を〝貪欲に〟導入しているのは石油経済からデジタル経済への転換が狙いだ。モビリティーはそれを促す最重要技術のひとつといえる。そのため通常2年の就労ビザとは別に、18年から特別な技術を持った外国人には10年の長期ビザを発給し始めた。またUAEに投資する外国企業には様々な特区を設けている。
AI分野にも注力しようと19年には世界初のAI専門大学を設立し、アブダビ首長国皇太子の名前から「ムハンマド・ビン・ザーイド人工知能大学(MBZUAI)」と名付けた。学費から住居費まで全て無料で、国を挙げて優秀なデジタル人材の育成を図ろうとしている。
このようにUAEには最先端技術だけでなく、優秀な技術者が集まるエコシステムができつつある。世界のモビリティー革命のけん引役となっており、歴史を覆すようなチャレンジには最適な舞台だといえるだろう。