2024年11月21日(木)

日本人なら知っておきたい近現代史の焦点

2024年10月25日

 ヒルビリーと自称するヴァンスを、バイデン政権で運輸長官をつとめるピート・ブティジェッジは、ケーブルテレビ局HBOの人気トーク番組リアルタイム・ウィズ・ビル・マーで鋭く批評した。ブティジェッジはヴァンスのことを指して、大金持ちによいことをしてくれそうな共和党を支持することに決めた大金持ちに過ぎないと喝破したのである。ブティジェッジはまたヴァンスが5年前は、トランプを厳しく批判する反トランプだったのに、手のひらを返したようにトランプをほめそやすように態度を変えたことについて、上に行くためには何でもするあのような人間はよく知っていると人格まで問題視した。

 一方、ハリスの副大統領候補であるティム・ウォルズは、その家庭環境や、田舎町の高校を卒業してすぐ州兵となったこと、また、公立高校の社会科の教員として勤め、また勤務する高校のアメリカンフットボールのコーチをした経歴など、米国人が考える庶民像にぴったりである。4人の候補を比べるとウォルズだけが典型的な庶民派といえるだろう。

お金を儲けることは誇らしいこと

 それではウォルズを擁するハリス側が庶民にアピールするかというとそうも言えない。必ずしも米国では「庶民」が庶民に受け入れられるとは限らないのである。

 もともとプロテスタンティズムが主流を占めてきたのが米国である。プロテスタントは現世でまじめに働くことを重視する。勤勉に働くことは徳を積むことであり、そのため一生懸命働いてお金を儲けるのは恥ずかしいことではなく、むしろよいこととされる。

 米国は臆面もなく金持ちになれる国なのである。それ故、トランプがお金を儲けて華やかな生活を送ってもそれがマイナスになるとは言えない。

 また米国人は、サクセスストーリーが大好きである。ヴァンスのように恵まれない境遇からのし上がった人物をアメリカンドリームの体現者として高く評価するのだ。むしろ、中産階級の普通の家庭で生まれ育って、まじめに勉強して大学を出て成功したという人物よりも、麻薬中毒を克服して成功したという人を高く評価するきらいがあるくらいである。

米国に根強い「反知性主義」

 そして、更にハリス陣営にとって頭の痛いことに、米国には根強い「反知性主義」という伝統がある。知識層と権力とが結びついた権威に反発するという伝統である。

 知性的だが堕落した欧州を脱して、新しい神の国を造ったのがピューリタンたちであった。欧州のような権威主義が存在しない新世界において、ピューリタンの聖職者たちの知性は権力と結びついて大きな力をもった。だが当然多くの人々は、神の前では学識のあるものもない者も平等なはずであるとそれに反発した。

 ニューイングランドの植民地において、権威主義的な指導層とそれに反感を抱く庶民たちは時に敵対関係にあった。ジェファソンやマジソンといった米国建国に貢献した建国の父祖たちは、当時としては極めて高い学識をもっていた。それは憲法制定会議に集まった代表55人の大卒比率が当時としては驚くほど高いことからもわかる。


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