2024年11月21日(木)

バイデンのアメリカ

2024年11月2日

 「彼は最近、自分の意思に従わない人物たちを“内なる敵enemy within”と呼び、軍隊を投じてでも対処する旨の発言をしたが、自らの政治目的達成のために国内での軍隊使用は極めて危険極まりない。それがたとえ政治的発言だとしても、そのこと自体あってはならないことだ。大統領在任中、我々側近たちから何度も、米国市民に対する軍隊使用はあってはならないことを伝えられたが、彼は納得がいかず、自分にはそうする権限があると頑固に主張してきた。そして今日またもや、軍隊使用を口にし始めていること自体、懸念すべきことだ」

 「彼は、アメリカ民主主義の根本的価値に対する基礎的理解を欠いている。私が首席補佐官に就任後の最初の数日間、彼に対し、大統領は執務上、合衆国憲法への誓約を行い、それが個人的忠誠の上位にあることを何回にもわたって説明したが、彼はその何たるかを理解できず、法の支配についてすらも納得いかなかった。つまり、私的忠誠こそがすべてだと信じてきた。四軍の将軍たちに対しても普段から『わが大将(my general)』と呼んで私物化し、彼らが大統領の使用人ではなく憲法に対する従僕であることを理解できなかった…彼は何度か、ヒトラーを評価する言葉を口にした。彼は歴史への理解を欠いており、私はそのたびに諫言したが、『ヒトラーは良いこともした』などと反論された」

 これらのケリー証言はただちに、他のメディアでも大きく取り上げられ、トランプ陣営はただちに火消しに追われた。

 ここで“わが意得たり”とばかり、ハリス陣営が新たな動きに出た。

 まず、ハリス氏自らがニューヨーク・タイムズ紙報道の翌日の23日、副大統領公邸執務室から、トランプ氏を酷評する以下のような異例のコメントを発表した:

 「もし、トランプが再選されたら、もうホワイトハウスにはケリー首席補佐官のようなモノ言う人物がいなくなり、極めて危険な状況になる。彼は、憲法に忠誠を尽くす軍人を求めておらず、自分の個人的命令に従う軍人のみを必要としている。ユダヤ人600万人、そして数十万人のわが米国人たちを殺害したヒトラーを評価することは恐るべきことであり、彼はファシストの範疇に入る人物だ。私たちは彼が何を欲しているかを知っている。それは無制限の権力だ。問題は、大統領選の投票日まで残された13日間で、米国民が何を求めるかだ」

 続いてハリス氏は同日夕、ペンシルベニア州フィラデルフィア近郊の市民会館で開かれた「タウンミーティング」に出席した際も、経済、移民問題などについてのひと通りの所感を述べた中で、トランプ氏個人の資質問題に数回にわたり言及、「トランプ大統領返り咲き」の危険性を聴衆に訴えた。

 「トランプ候補はファシストと思うか」との質問にも、即座に「そう思う」と答えた。

覚悟を決めたハリス陣営

 こうした動きに関連して、AP通信は同25日、「ハリス候補、投票日直前にトランプ個人に照準」の見出し記事を発信、「前大統領に対する恐怖感によってハリス支持者や態度未定有権者を少しでも自陣に引き寄せようとする賭けであり、アメリカン・デモクラシーという哲学的問題を一般市民の日常的関心事に結びつけようとする挑戦を意味している」との解説を加えている。

 実際に、土壇場でのこのようなハリス陣営によるトランプ個人攻撃がどれほど票に結びつくかは未定だが、同28日付けのニューヨーク・タイムズ紙取材担当者共同執筆による詳細な分析記事は、「ハリス陣営側近者たちの間では、勝利の公算について『慎重な楽観論』が広がりつつある」として、以下のように伝えている:

 「民主党のトップ・ストラテジストたちは、トランプ前大統領を『ファシスト』と位置付ける選対本部の企てが、接戦諸州への作戦拡大および妊娠中絶問題で意気盛んな女性有権者たちのパワーと相まって、ハリス候補を薄氷ながら勝利に導くことになるとして、これまで以上に気を良くしつつある。トランプ側近の何人かさえ、ヒトラーをたたえるトランプ候補に“新進の独裁者”のレッテルを張ろうとする動きによって、わずかだが(勝敗上)意味ある人数の有権者が投票態度を動かされることを心配している」


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