台湾侵攻への態度はあいまい
中国、北朝鮮への対応は日本にとって大きな関心事だ。貿易不均衡が続く中国に対しては高い関税課すことなどを主張しているが、現実味を帯びつつある台湾への中国の侵攻をめぐっては、あいまいな態度を示している。
氏は「(米の介入については)言いたくない。外交的立場を悪くしたくないからだ」(米誌とのインタビュー)と繰り返す。その一方で、「台湾は防衛費をわれわれに払うべきだ。彼らは金持ちだが、何もしてくれない」と述べ、不満をあらわにしている。
バイデン大統領が台湾支援を規定した台湾関係法に基づいて、武力介入も辞さない方針を繰り返しているのとは対照的だ。トランプ氏のこうした姿勢が、中国を勢いづかせると強く危惧されているのは当然だろう。
東アジアでの脅威となっている北朝鮮をめぐってトランプ氏は、今夏の共和党大会で「核実験、ミサイル発射を中止させた。私は金正恩とうまくやっていける」と米朝首脳会談の〝実績〟を強調。対話による解決に自信をのぞかせた。
北朝鮮はあらたな核実験を準備中と伝えられ、ウクライナ戦争に〝派兵〟するなどその存在の危険性は世界に拡大しているが、米新政権の方針が不鮮明なままでは日本を含む各国に不安が拡散される。
通商問題「日本も例外ではない」
貿易面での厳しい姿勢をとり、防衛費の負担増貿を求めることでは、日本も対象となる。
トランプ政権で通商問題担当の大統領補佐官を務めた側近は、関税問題について「日本には非関税障壁がある。米国が製品を売り込むのは大変だ。日本から何百万台もの自動車を買っているが、彼らの米国車輸入はわずかだ。日本も例外ではない」と述べ、強硬姿勢を示唆した。
トランプ氏自身、16年の大統領選の際、日本に対して駐留米軍経費の100%負担を求めた。現在でもそうした方針に変化はないとみられる。
バイデン政権時代を通じて、日本は中国を念頭にアジア各国との連携を強めてきた。日米豪印4カ国の協力枠組み「クアッド」の場で、米国を中心としてインド、豪州の首脳と政策調整、長期にわたって冷却化していた韓国との関係を、岸田文雄前首相と尹錫悦大統領との間で改善、久々に良好な関係を構築した。
昨秋には、萩生田光一自民党政調会長が訪台、蔡英文総統(いずれも当時)と会談。ことし1月の日米首脳会談ではあらためて東南アジア諸国連合(ASEAN)との連携強化を謳い、近年、中国が影響力を強めている太平洋島しょ国とのサミット(首脳会議)を日本で開催した。
いずれも、中国を念頭に置き、ウクライナ、中東問題に忙殺される米国に代わって、日本がこの地域でリーダ-シップをとることへの日米の暗黙の了解があるとみるべきだろう。
しかし、米国が影響力を弱めたらどうなるか。日本独自で各国を取りまとめ、中国に対抗していくのはいささか荷が重いし、現実味に欠けるというべきだろう。
そうした間隙を突いた中国の台湾侵攻もいよいよ差し迫ってくるかもしれない。米国が消極的なら、それを除外して世界のミドルパワー、とくに最近、中国への警戒感を強めているNATOとの連携を強化することなどが有効な手立てだろう。