カナダでは、5人に1人が外国生まれで、長年、移民の受け入れに寛容であった。保守党も労働党も、労働者の数を確保し、人口を増加させるために移民の受け入れを推進してきた。
一方、状況は変わりつつある。多くのカナダ人は、余りに短期間に、余りに多くの移民を受け入れすぎたと感じている。移民の側は、こうした動きに対し、不公正な形で標的にされていると感じている。
欧米と異なり、カナダの移民の大多数は合法的にカナダに来た者であり、近年の国民感情の変化はあるものの、政治における議論も概ね落ち着いている。ただし、インドからの学生を含む一時的滞在者が非常に多く集まっている地域では緊張が見られる。
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経済、多文化許容、変化
欧州各国で移民・難民問題が深刻化しているが、上記記事は、移民に対して寛容な政策をとってきたカナダも移民制限の方向に方針転換していることを指摘する。
カナダは、世界の先進国の中で、移民受け入れに最も積極的な国である。移民問題が深刻化している欧州諸国では外国人人口が10%前後の国が多いが、カナダでは人口の23%が移民となっている(2021年国勢調査)。
人口学者のポール・モーランドは『人口は未来を語る』において、少子化の中、外国人を多く受け入れることで経済力を確保するが、民族の連続性を犠牲にする国を「英国型」と呼んでいるが、英国にもましてその特徴を強く示しているのがカナダと豪州であろう。
上記記事は、カナダが移民受け入れに積極的であったものの、近年、方針転換している経緯について説明しているが、どのような要因がその「受け入れ姿勢」を規定するかを考える際に示唆的である。
「受け入れ姿勢」を規定する第一の要因は、経済状況である。カナダが移民受け入れに積極的だった背景には、広い国土と少ない人口で、経済発展のため労働力を外から調達する必要性があった。上記記事では、カナダでは、近年の経済減速の中、移民制限論が出ていることが指摘されている。経済が減速すれば、労働力の必要性が減り、また、国民の不満が移民へと向かいやすくなる。
「受け入れ姿勢」を規定する第二の要因は、多文化への許容度であろう。カナダや豪州は、多文化を許容する社会意識を醸成してきた。カナダも豪州も、元は、先住民が住んでいた所に、白人が来て作った国である。白人が後発の移民による「文化移植」にオープンな姿勢をとることは、近年に至り、先住民の文化を尊重しようとする姿勢となったこととも親和的なものであろう。