2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年11月29日

 NPT脱退は、地域で影響力を広げようとしており、非同盟の一方の旗頭を自認しているイランにとっては少なからざるコストである。また、イスラエルからの攻撃に対応するためであったとしても、それをすれば、周辺アラブ諸国との関係で緊張度を高めるとのマイナス面もある。

 さらに、《力》の原理で考えても、核保有に向かうことのリスクと限界も出てくる。核保有に向かうことが探知されれば敵方に攻撃の口実を与える。また、核兵器を保有したところで、それがどの程度「使える兵器なのか」の問題もある。

 イスラエルは核兵器を保有していることが公知の事実となっているが(ただし、イスラエル政府はこれを公式に認めない「あいまい政策」をとっている)、昨年10月のハマスによる攻撃を抑止できたわけではない。かつてのインティファーダについても同様であった。

 イスラエルが正面からイランという国家を滅ぼそうとして全面戦争を仕掛けるのであれば、核はそれに対抗する手段となり得るが、核は低烈度の攻撃を抑止する手段とはならない。

イスラエルの核使用の可能性は低い

 そう考えてくると、たとえ低烈度の紛争において通常戦力でイスラエルに圧倒されたとしても、イランにとって核保有に向かうかどうかは容易な判断ではない。

 核を持とうとするイランに対してイスラエルと米国がどのように対応するかは、更に複雑な問題である。ミードがここで想定しているような、イスラエルが核を用いてイランを攻撃するとの脅しをかけるといったシナリオの可能性は、低いとみられる。

 イスラエルが1960年代後半以来、核のあいまい政策を継続してきていることには、それだけの理由と背景があり、それが簡単に覆るとは考えにくいからである。

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