2024年12月5日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年11月29日

 米国の助力がなければ、厚く防備され、地域的にも分散し、地下深くに隠されているイランの核計画に対する唯一の軍事的なオプションはイスラエルが核兵器を使うということになるかもしれない。もしも米国がイスラエルの通常戦力でイランの核計画を阻止することを助けないのだとすれば、イスラエルはイランに対して、最後の手段として核兵器を使用する旨脅すことになるのだろうか。

 そうした脅しがあまりに重大であることから、イスラエルが通常戦力によってイランの核施設を破壊することに米国は手を貸すのであろうか。2025年は興味深い年となりそうである。

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国際政治を動かす「力」「ルール」「理念」

 米国の外交政策についての大家であるウォルター・ラッセル・ミード教授によるイランに関する論説である。イランはウラン濃縮や核爆発装置の開発などは進めるが、核保有の一歩手前で止める核の「寸止め」政策を進めているとみられている。

 ところが、近時、イスラエルとの対立が直接的な攻撃の応酬の段階に至り、通常戦力のみではイスラエルの攻撃を止めることが困難となっていることから、従来の方針を修正し、核保有に向かうのではないか、という予測を耳にすることが多くなった。このミードの論説もそうした予測に立っている。

 これは国際政治の動きを《力》の原理で読み解こうとするリアリズムの考え方から出てくる予測であり、そうした展開になる可能性はある。一方、国際政治は《力》の原理だけで動いているわけではない。

 日本が「ルールに基づく国際秩序」を提唱するように《ルール》の要素もあり、それぞれの国家が目指す《理念》の要素もある。ロシアがウクライナを侵略したように《ルール》は破られることもあり、国家は自らが目指す《理念》に反する行動をとらざるを得ないこともあるので、《ルール》にも《理念》にも限界はあるが、国家の行動を規定する一定の影響力を持っている。そこで、イランの指導層にとって、核保有の方向に転じようとする際には、いくつか乗り越えるべきハードルが出てくる。

 《理念》の関係では、イランのハメネイ最高指導者は、ファトワー(イスラムの勧告)において「イスラム法では核弾頭の製造、保管、使用は禁じられている」と述べてきた。《ルール》については、核不拡散条約(NPT)との関係がある。NPTは、非核兵器国が核爆発装置を製造、受領することを禁じている。イランは核保有に向かうためには、NPTを脱退しなければならない。


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