製鉄、石炭鉱業など「国内製造業の復活」は、大統領在任中もその重要性にたびたび言及したが、掛け声だけでほとんど手づかずのままだった。今年に入り、日本製鉄による再建をめざした「USスチール」買収についても、強硬に反対するだけで、根本的な再生策を示していない。
健康保険制度の「抜本的改革」については、現行の「オバマケア」維持のために政府が多大な出費をしいられているものの、国民の大半が低額負担でその恩恵を受けてきたことから、トランプ政権は当初から何ら打つ手がないままで終わった。
しかし、最大の公約違反は「政府債務の削減」だった。
16年大統領選の最中、トランプ候補は米CBSテレビ会見で「オバマ民主党は際限なく国の借金を増やしてきた。これは時限爆弾のようなものだ。私は当選すれば2期8年の任期中に債務をゼロにしてみせる」と力説してみせた。
ところが、トランプ氏は実際は再選を果たせず、1期4年で終わったものの、その間に国家債務は減るどころか、逆に20兆ドルから29兆に膨れ上がる結果となった。任期中に、コロナ危機に直面、そのための対策として1兆7600億ドルの臨時支出があったとはいえ、それを差し引いても、結果的に大きな借金を上積みしたことになる。
農業に甚大なダメージを与えかねない関税引き上げ
では、「トランプⅡ」ではどうなるのか。
トランプ氏はこれまでの選挙戦を通じ、①中国、カナダ、メキシコなどの諸国からの輸入品に対する大幅関税②法人税、個人所得税の「史上最大規模の減税」③国内不法滞在者の「史上最大規模の国外追放④「忠誠を尽くさない政府公務員の大量解雇」⑤石油、石炭採掘事業に対する環境基準の撤廃⑥ウクライナ戦争、中東ガザ紛争の即時終結⑦北大西洋条約機構(NATO)の抜本的見直し、などを国民向けにアピールしてきた。
しかし、これらのどれひとつとってみても、公約達成にはさまざまな大きな難題が待ち受けている。
このうち、有力雑誌「The Atlantic」は最近号で、とくに諸外国製品に対する関税引き上げ、不法滞在者の国外追放の2点に焦点を当てた「トランプは地方支持者層を裏切ろうとしている」と題する論考を掲載、以下のように述べている:
「全米の都市以外の地方におけるトランプに対する支持は事実上、天井知らずの観を呈している。実際、彼は今回の大統領選挙において、16年、20年選挙時を大きく上回る票を地方社会で獲得した。しかし、共和党議会とともにこれまで打ち出してきた『第二次トランプ政権』のいくつかの政策は、これらの地方に不釣り合いなダメージを与える恐れがある」
「農業従事者たちは1期目のトランプ政権が中国、欧州連合(EU)、メキシコ、カナダなどの貿易相手国に課した諸関税の最大の被害者となった。これら諸国が報復措置として米国産の大豆、トウモロコシ、豚肉に対し追加関税を課したため、売り上げが落ち、結果的に農家の大幅収入減につながった。そのためにトランプは、救済措置として農家に対し600億ドルの補償を余儀なくされたが、この額は事実上、関税引き上げによる増収分と相殺されてしまった。
被害はそれのみにとどまらなかった。トランプが高関税を課したこれら諸国は、米国以外の国や地域に販路をシフトしたため、米国産の農産物にとってその分市場を失う事態を招いた。実際、ノースダコタ州立大農業貿易政策研究所のサンドロ・スタインバッハ所長によると、トランプ1期政権がスタートする前の16年当時、米国は中国に対し、ブラジルと同等の大豆を輸出していたが、今では中国のブラジルからの買い入れ量は米国産の3倍にも達している。多くの物産に対する中国の国内需要は引き続き拡大しつつあり、輸入相手国は米国以外に多様化している」