「しかし、トランプは来年1月から、中国に対する関税の60%への引き上げ、カナダ、メキシコへの25%課税のほか、外国製品すべてに10%課税というさらに大胆な関税政策を推進することにしている。スタインバッハ所長は、予定通り実施された場合、関係各国は前回の時以上に米国産品に報復関税をかけることになるため、米国の農家にとってはより深刻な痛手は避けらないと指摘している」
「一方で、農業ロビイストたちは、農家のエネルギー・コスト削減につながるとして、トランプ政権が新たに打ち出す(石油、石炭採掘関連の)環境基準緩和措置を歓迎している。ところが、ここでも農業従事者を悩ます別の問題がある。すなわち、不法滞在者たちの国外追放措置だ。
地方の農家では日雇い労働者の15~20%をこれら外国人が占めており、農場のみならず、食肉加工業者、食品工場なども外国人労働者への依存度は高まっている。トランプは、国内の不法滞在者を一斉摘発し、『大量国外退去』を公約しているが、彼らがいなくなることで、農家は代わりの労働者を高い賃金で雇用せざるを得ず、その分、生産コストが上がり、競争力の低下は避けられない。国内の一般消費者も値上がりした食品の購入を余儀なくされることになる」
「関税引き上げと不法滞在者国外退去の二つの措置が今後、国内農業経済に及ぼすマイナス効果について、首都ワシントンの『ピーターソン国際経済研究所』が最近、注目すべき試算レポートを出している。それによると、公約通りにこれら措置が継続的に打ち出された場合、農業関連輸出は28年までにほぼ半減、農業生産全体もこれまでと比較し、6分の1程度の減少を招くことになるとしている。
こうしたことから、共和党議会は農村地方からの批判や抵抗に直面することになるが、結局は、農村選出議員も含め、トランプの描く青写真を踏襲せざるを得ないだろう。しかしそうした場合、共和党がこれまで誇って来た農村の強力な支持基盤に弛緩を生じさせることになるのか、あるいは、トランプに対する農村の熱狂的支持が経済的打撃を当面押しとどめ続けるのかのどちらかのシナリオがあり得よう」
トランプ氏はこれまで「関税は世界で最も美しい言葉だ」とさえいきまき、固執してきたが、場合によっては、農村に背を向けられ、4年後の選挙で共和党がしっぺ返しを食う可能性もありうる。
米国版〝トラス・ショック〟の懸念
「大型減税」の公約も、一筋縄ではいきそうもない。
いわゆる「トランプ減税」といわれるもので、①39.6%から37%に期間限定で引き下げた所得税を恒久化する②35%から21%に引き下げた法人税率を15%に引き下げる③レストラン従業員などのチップ収入や残業代を非課税とする、などからなっている。
個人、法人ともに減税自体は歓迎だが、問題は、政権1期目と同様に、大幅な税収減により、財政赤字がこれまで以上に深刻化することだ。
国の借金が膨らめば膨らむほど、信用低下を招き、最悪の場合、22年に英国のトラス首相(当時)が財源の裏付けのないまま大幅減税に踏み切った結果、国債、株式、ポンドの「トリプル安」に至った時と同様の事態に陥らないとも限らない。金融不安は企業収入を減らし、結果的に労働者の所得減収にもつながる。