金利と為替はどう動く
まず1点目は、金利と為替の動向である。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル総裁は、19年以来の長い期間にわたって「景気冷却に先手を打つ」として利下げを続ける一方で、「それでも景気の過熱感がある」と感じられる場合には利下げを先延ばしにしてきた。これは、かなりの高等戦術と言える。
一般論を言うのであれば、景気加熱局面であれば多くの場合に中央銀行は、拙速に金利を上げて景気を一気に冷やしてしまうことが多い。かといって、景気加熱を放置するとバブルの膨張を招き危機を拡大する。その一方で、景気が減速する中で金利を下げなければやはり景気は過度に冷え込んでしまう。
そんな中で、パウエル議長は金利引き下げの速度を調整することで、先進国の中央銀行としては極めて珍しい「景気のソフトランディング」に成功しているように見える。一部には、トランプ次期大統領は、そのようなパウエル氏の独断独走を苦々しく思っているという説がある。
では、そのトランプ流の金利政策というのは何かというと、クラシックな保守主義からは「もっと強いドル」を期待するのが常道だ。けれども、トランプ氏の場合は製造業の復権を目指す中では、ドル高では通商相手国に有利になるのでドル安誘導をするかもしれないなど、見方は定まっていない。この場合は「二兎を追う」ことは難しいので、パウエル式の「ソフトランディング」が継続する可能性はあると思う。
そこでドル円の金利差がそう簡単には縮まらないという見通しが出てくると、円の一段安という可能性は否定できない。その動きが過度となり、日本円の最後の輝きとしての円高現象が見通せなくなるようだと、株も不動産も含めて外国人投資家からは日本資産に関する処分の売りが出始めるであろう。
そうなれば、円、株、不動産のトリプル安に陥る危険性が出てくる。日銀の植田和男総裁としては、その前に利上げをするか難しい判断となろう。
「劇場版政治」の経済への影響
2点目のチェックポイントは、トランプ新政権の「過激なポピュリズム政策」が必ずしも経済には良い影響を与えないという問題だ。今回、トランプ氏を当選させた巨大な民意の中心にあるのは、インフレへの強い不満である。したがって、トランプ氏としてはその民意にダイレクトに応えて行くには、アメリカにおけるインフレ退治をしなくてはならない。けれども、トランプ氏自身が既に予防線を張っているように、これは非常に困難な仕事である。
例えば、中国からの輸入品に高い関税を適用すればダイレクトに物価は上昇する。不法移民を追放すれば、農業やサービス産業を支えた労働力が消滅し、関係する物品の価格は跳ね上がるであろう。
そもそも、トランプ氏の支持者は、製造業回帰という政策を支持しているが、それは知的労働だけが優遇される現在に反発しているだけで、自分が製造業の職を求めているわけではない。また、不法移民を追放したいのは、自分の職が奪われているからではなく、不法行為をした人間への権利を認めたくないからに過ぎない。
ということを含めて、トランプ氏の政策はそれ自体がインフレ要因を内包している。けれども、世論はインフレ退治を望んでいることには変わりはない。