2025年1月6日(月)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2025年1月2日

 この矛盾した構造をそのまま正直に実行したのでは、合理的な政策運営は不可能である。結果的にトランプ政権は、一期目と同じように発言だけは過激な「劇場型政治」を続けつつ、過度に脱線した場合は正常運転に戻すなど、臨機応変な対応をせざるを得なくなるであろう。

AIは価値を生むか、ただのコストダウンか

 3点目は、先端技術の動向である。輸送用機器に関しては、特に自動車の急速な電気自動車(EV)化は抑制されるかもしれないが、イーロン・マスク氏が政権内で存在感を維持するのであれば、EVが全否定されることにはならないであろう。また自動運転車(AV)技術に関しては、規制緩和の文脈からかえって進捗が進むかもしれない。

 その一方で、米国経済の動向を左右するのはコンピュータを巡る技術革新の行方である。とりわけ人工知能(AI)に関しては、現在はシリコンバレーの各社は非常に前のめりになって実用化に走っている。トランプ政権はこうしたテーマに関しては、基本的に規制緩和の文脈で対応するであろうから、開発へブレーキがかかることはないであろう。

 けれども、現時点でのAIの実用化というのは、準定型文書の自動作成であったり、文書の内容の要約など「中付加価値の知的作業の自動化」が1つの柱である。特に、概括的な目標達成を命令すると、AIが自動的に複数のタスクを組み合わせて、目標達成へ向けて活動する「AIエージェント」の実現が叫ばれている。これは新たな価値を生み出す効果になるか、それとも単にコストダウン効果を狙ったものに終わるか、持っていき方にもよるが、いずれにしても、基本的には雇用を縮小させる。

 もう1つの柱は画像や動画の修正や創造という機能で、こちらもコストダウン効果が主となろう。そうなると、アメリカでは21世紀初頭から進んだデジタルトランスフォーメーション(DX)化が単純事務労働を奪ったように、AIは中付加価値頭脳労働を奪う中で、社会にはまた別の混乱が広まることが予想される。一方で、量子コンピュータなど天文学的な投資を必要とするプロジェクトに関しては、トランプ新政権は基本的に公費投入には消極的になるかもしれない。

 そんな中で、爆発的な新しい価値創造にはなりそうもない中で、経済効果が限られるという見通しが広まれば、AIバブルが崩壊し、株式市場の低迷を招く可能性は否定できない。最悪の場合は2000年の「ITバブル崩壊」の再現ということもあり得る。

外交も注目点

 ここまで見てきたように、第二次トランプ政権の船出にあたって、米国経済を取り巻く環境はかなり波風の荒い状況であると言えるだろう。そんな中で、仮にトランプ氏が先手を打つとすれば、想定されるシナリオとしては、即効性のありそうな2つのカードがある。これが第4、第5のチェックポイントだ。

 4つ目は、ウクライナ戦争を早期停戦に持ち込み、ロシアのエネルギー資源を国際市場に戻して原油価格を思い切り引き下げるというカードである。これはトランプ氏が繰り返して主張している内容であり、国際社会にはある程度「心の準備」がされているとも言える。だが、結果的にプーチン政権の侵略を追認するのであれば、国際的な安全保障の枠組みは内部崩壊してしまうし、西側同盟の結束もアメリカの威信も崩れてしまう。

 シリアのアサド政権崩壊、北朝鮮軍の参加など、ロシアが弱みを見せている中で、それでもトランプ氏がウクライナ和平に「猛進する」かどうか、国際社会がこれをどの程度まで許容するかは、年明けの大きな注目点となろう。


新着記事

»もっと見る