2025年6月15日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年1月24日

 しかし、シリア人は、外国の善意を必要としている。アラブ人とクルド人の和解のためにはトルコの節度のある振る舞いと米国の外交が致命的に重要だ。

 アラウィ派を安心させるためにはロシアの仲介が助けになるだろう。湾岸諸国は、イランの影響を無効化するのに役立つだろう。アサド政権の崩壊でイランが敗者であることは明らかだ。

 イランは、自国の影響力を強めるために代理勢力を支援したが、かえって衝突に巻き込まれてしまった。他方、トルコは、シリアでイランの裏をかいて地政学的に域内の中心的な地位を占めた。

 そして、多くの西側諸国は、これまでのところ、劇的な変化が抑止されていることに安堵している。大規模な難民の流出は起きておらず、域外での大規模テロも起きず、油価への影響も無い。世界貿易も混乱していない。しかし、これらは、これから起こる惨事の前の自己満足に過ぎない。

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独仏がシリア新政権と会談も

 混乱が拡大しつつある中東の状況を的確に説明している良い論説である。論説は、イランが最大の敗者であり、トルコの影響力の高まり、イスラエルの好戦的姿勢と最低限指摘すべき点を指摘している。また、西側諸国がシリアの崩壊にもかかわらず、難民やテロの拡散、油価の高騰等が起きていないことに安堵しているが、それはかりそめの安堵に過ぎないという指摘にも賛成である。

 テロの拡散については、早速、大晦日に米国内で2件の大規模テロが起きており、その内の1件は、明らかに「イスラム国」に触発されたローン・ウルフ型テロ(「イスラム国」と直接的関係のないテロ)のようだ。やはり、イスラム原理主義勢力によるアサド政権の打倒がイスラム過激主義者達を刺激して今後もこのようなテロが起きる可能性がある。しかも、トランプ政権発足直前の米国で起きたので今後のトランプ新政権の政策に影響を及ぼす可能性がある。

 独仏の外相は新年早々、シリアを訪問して新政権のシャラア指導者と会談した。欧州はシリア難民に早く帰国してもらいたいために、前のめりになっているのではないか。しかし、元アルカイダのシャーム解放機構が中心となったイスラム原理主義政権が果たして国際社会と共存できるのか、懐疑的にならざるを得ない。

 「女性にスカーフの着用を求めるのか」というBBCのインタビューにシャラア指導者は答えなかった。さらに、イスラム原理主義勢力のスポンサーは、シリア国内のクルド勢力を反トルコのクルド労働者党と同一視して敵視するトルコであり、イスラム原理主義勢力とクルド勢力の衝突が起きる可能性が懸念される。既にシャラア指導者は、クルド勢力に対して武装解除を求めたとの報道もある。


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