国際戦略研究所(IISS)のホカイェム地域安全保障問題部長が、12月22日付けフィナンシャル・タイムズ紙に掲載された論説‘How 2024 recorded the Middle East’で、中東情勢は混乱が続いているが落ち着くまでには時間がかかるであろうし、落ち着くためのパワーバランスの再構築には暴力と覇権争いが伴うと論じている。要旨は次の通り。

2023年10月以来、中東では目が回る早さで状況が動いているが、状況が落ち着くには時間がかかるだろう。分裂し脆弱なレバント(東地中海地域)は歴史的な転換点にあるが、外からの支援は期待できず、この地域の再構築には暴力と覇権争いが伴う。
パレスチナ人は、イスラエルの軍事侵攻によりガザで過去に例の無い苦しみを受けているが、パレスチナ独立国家の樹立は国際社会の関与と話し合いによるものでなければならない。他方、パレスチナ人も、パレスチナ自治政府の改革により主体的に和平プロセスに関与しなければならない。しかし、それでもイスラエル側の非妥協的姿勢とトランプ次期大統領という問題がある。
イスラエルのユダヤ人社会は、わずか1年でハマスの攻撃のダメージによるトラウマから軍事的勝利まで経験した結果、イスラエルは軍事力に頼るべきだとして、ガザ、西岸地区、そしてシリア南部の占領が必要だと確信している。米国と一部の欧州諸国のイスラエルへの無条件の支援は、公平な和平の必要性を退けている。
しかし、物理的な安全だけを考えるのは誤りだ。それは費用がかかり、対米依存を高め、パートナーとなり得る周辺国を遠ざけるだけだ。周辺国は、イスラエルがイランの指導者や核施設を攻撃して紛争を拡大させるのではないかと恐れている。
レバノンでは、正反対の状況が起きている。思い上がっていたヒズボラは、その軍事戦略、イデオロギー的な主張、ヒズボラに対する信頼が崩壊したことについてよく考えなければならない。その負った深手、シリアの突然の失陥、支持基盤の崩壊から勢力を回復させることは不可能だが、レバノン人は、国家を改革する可能性がより高まった訳ではなく、手負いのヒズボラを怒らせることの怖さを分かっている。
そして、シリア人は、何十年も続いた圧政の後の自由を味わっており、腐敗したアサド政権の代わりに新たに誕生したイスラム原理主義政権は自制心と賢明さを示している。しかし、シリアに平和をもたらすには、全ての勢力を含めた政府を樹立するために非常な包容力と献身が必要だ。
皮肉な事に10年前、多くのアラブ諸国と西側はアサド政権の退陣を望んでいたが、シリア人は分裂していてそうすることは出来なかった。昨年の12月には多くのアラブ諸国と西側はアサド政権の存続を望んだが、シリア人は、一致してアサド政権を退陣に追い込んだ。