2025年12月5日(金)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2025年1月22日

引っ込めた各国への〝挑発〟

 就任演説においては、トランプ氏は、原則論として「あらゆる戦争に巻き込まれない」のが大原則だという強い孤立主義を確認していた。けれども、演説の全体を注意深く検証してみると、必ずしもトランプ主義がフルに展開されていたわけではない。

 1つはここ数カ月、急速に強めていた北大西洋条約機構(NATO)諸国への挑発を引っ込めたことだ。就任演説の中で、トランプ氏はまず、「メキシコ湾」の名称を「アメリカ湾」にするとしていた。これはこの間の挑発作戦の通りだ。また、「パナマ運河の経営権の奪還」については、かなり執拗に主張していた。

 さらに、国内の問題だが、アラスカ州にある北米最高峰の「デナリ山」を旧名の「マッキンリー山」に戻すとしていた。原住民への配慮といった「政治的正しさ」を嫌っての発言である。

 けれども、この間、声高に叫んでいた「カナダを51番目の州として併合」という主張と、「デンマークからグリーンランドを購入する」という要求には一切触れなかった。その代わりに、「アメリカは有人火星旅行を目指す」という「目標」に差し替えた格好になっていた。

 この「カナダ」と「グリーンランド」の問題だが、このカナダとデンマークは、NATO加盟国である。この2カ国に対して領土紛争を挑発するというのは、そのまま「西欧全体を敵に回す」ことになる。下手をすると、この間に、スウェーデンとフィンランドがNATO加盟した効果を帳消しにする以上の悪い効果がある。「言ったことは忘れずに執拗に追求する」トランプ氏であるが、ここで自制をしたというのは、注目に値する。

 これとは別に、カナダに対してはメキシコとともに、25%の関税を発動するという示唆がされている。だが、これは予定の行動であり、この関税交渉を冷静に行うためにも、カナダ併合という暴言は撤回し、その一方でメキシコに対しては湾名変更を宣言して圧力をかけているのだろう。もちろん、外交としては無理筋だが、それでも現実と乖離したイデオロギーによる妄想外交とは言えない。

〝奇跡的〟な国務長官の「満場一致」承認

 この就任日の動きとしては、トランプ政権の閣僚候補に関して、連邦上院が最初の承認を行ったということが報じられた。外交の責任者である国務長官候補としては、かねてよりマルコ・ルビオ上院議員が指名されており、上院での公聴会も進められていたが、この1月20日に上院本会議での票決があり「満場一致」で承認されたのである。

 閣僚人事への承認というのは議会上院の権限であるが、大統領に敬意を表するという意味から、歴史的には党派の垣根を超えて承認するという慣例はある。けれども、全会一致というのは珍しいし、まして「分断の時代」の現代にあっては奇跡的な現象である。


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