2025年12月5日(金)

インドから見た世界のリアル

2025年1月22日

米国への高度人材流出

 1つ目は、合法移民に対するビザ発給の問題だ。H-1Bビザ、についてである。世界中から能力の高い人を集めるためのビザだが、あまりたくさん支給すると、アメリカ人のエリートたちから仕事を奪ってしまう。だから、アメリカは発給数を決めて、調整をしてきた。

 このビザが、なぜ米印関係に影響するかというと、インド人が4分の3以上占めるからだ。23年時点でみると約38万6000人、インド人に対して支給されている。

 インドのスーパーエリートたちは、合法移民の代表なのである。だから第1期トランプ政権の時も、ビザの発行数をめぐって、米印間では問題になった。

 今回もまた、問題になり始めている。ただ、以前とは様相が異なる。トランプ大統領の支持者の間で、意見が割れているからだ。

 トランプ大統領の就任式で存在感を見せたイーロン・マスク氏やマーク・ザッカーバーグ氏ら企業の経営者たちにとって、能力の高いインド人は必要不可欠で、より多くの人材を求めている。だからH-1Bビザ発給数は増やしてほしい。一方、トランプ大統領の支持者の一部は、インド系が力をつけすぎ、「アメリカ人から仕事を奪っている」という認識を持ち始めている。

 トランプ政権では、バンス副大統領の夫人も、政権に入るヴィヴェック・ラマスワミ氏も、インド系であるが、そういったインド系の力の増大に、一部のトランプ政権支持者は、警戒感を隠さない。だから、そういった人たちはビザ発給数を厳しく制限する政策を訴えている。

 インドから見ると、複雑である。モディ政権は、これまでアメリカに対し、ビザ発給数を増やすよう求めてきた。だが、インドの歴史を見ると、実は能力のあるインド人がアメリカへ行くことは、諸刃の剣だ。

 インドが世界的な影響力を見せ、今やアメリカを乗っ取りかねないほどに達しつつある、と同時に、頭脳流出によって国内の成長が遅れる原因でもあった。01年に9.11同時多発テロが起きたときに、それは証明された。

 テロをきっかけに、アメリカで、アフガニスタン人や中東系に対する嫌がらせが増えたのだが、見た目が似ていたために、インド人も巻き添えを食い、嫌がらせの対象になった。そのため、一定数のインド人が、アメリカからインドに帰国し、結果、インドが急速に経済成長するきっかけになった。そこからみると、能力の高いインド人がアメリカでチャンスを見つけることは、インドにとって、一長一短なのである。

 モディ政権としては、国内の雇用の確保が優先だから、ビザ発給数を増やそうとする方向性に進むだろう。世界的な影響力も重要だ。だが、この問題、実は、インドにとって、どっちがいいのか、わからない問題でもある。


新着記事

»もっと見る