2025年12月5日(金)

インドから見た世界のリアル

2025年1月22日

不法移民問題も影響

 トランプ大統領就任式で明るみになったもう一つの問題は、なんと、不法移民の問題である。トランプ大統領は国家非常事態を宣言し、移民の強制送還を行う。一見すると、合法移民中心のインド系には、関係ない問題のようにみえる。

 ところが、実際には1万8000人のインド人が強制送還の対象になりそうなことが、明るみになりつつある。しかも、最終的に何人になるのか、不法移民なので実態がわからず、もっと多くなるかもしれない。

 しかも、この問題には、出生地主義の変更も関係している。アメリカの市民権を得るためには、これまでは、アメリカで生まれるだけでよかった。アメリカの憲法に、そう書いてあるからだ。しかし、今回、トランプ大統領は、条件をより厳しくした。

 憲法と矛盾しないのか、議論になってはいるが、その大統領令によると、母親が不法または一時的な資格でアメリカにいる場合は子供も市民権を得られないし、父親にも国籍や永住権を求めている。アメリカ国籍が欲しいインド人の場合でも、不法移民ではだめなのである。

遠のく多極化

 移民の問題以外にも、インドは、もう一つ別の問題で、少しがっかりしているように見える。それは、トランプ政権の誕生で、アメリカが影響力を取り戻したようにみえるからだ。

 過去、オバマ政権の時もそうだったが、バイデン政権の時に盛り上がった議論は、アメリカの力は落ちており、世界は多極化に向かう、という議論である。インドはこの議論が好きで、多極化した世界では、インドは、アメリカ、中国、ロシア、日本など、多くの有力な極の1つとして、世界で存在感を示すことができる、と考えてきた。

 インドは、実際に、国防費で世界第3位、国内総生産(GDP)でも今年は世界第4位、来年は世界第3位になっていく。アメリカだけが超大国の世界では、インドの存在感は小さいが、世界の多くの国が同じくらいの力で競い合う世界では、インドも存在感を示せる、といった思惑があった。

 ところが、トランプ政権ができて起きていることは、世界中がトランプ大統領を恐れ、トランプ大統領の一挙手一投足に注目している状態だ。トランプ大統領がただチョコレートのかけらを食べただけでも、世界は恐れるような雰囲気になっている。これは、アメリカだけが中心になる世界の再来を意味している。

 世界は多極化ではなく、再び一極になってしまった。インドからみると、自らの存在感がかすんでしまったように見えるのである。

 インドでは、バイデン政権よりもはるかにトランプ政権の人気が高い。明らかな歓迎ムードがある。それでも、インドはトランプ政権の誕生に少し戸惑っているようにも見える。

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