2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2014年3月1日

 供給量は、ここ4年間は約10分に25単位の期間に入っており、現状でおよそ年12%増えている計算になる。これは実質的にマクロ経済学でいうところのインフレ率だと考えることができる。ストックが増えて供給フローが減っていくため、相対的にこのレートは漸減していき、4年後では約4%、8年後には約2%、その後は増加%はほぼ半減していく。

 この供給量設計は、一通貨圏の金融政策になぞらえることができる。当初の4年で、通貨圏における通貨の拡充を速やかに行い(全供給量の半数が発行され、市場規模拡大がある程度安定してくる)、その後は4年ごとにインフレ率を漸減させていくのだ。これは金融政策としてみた場合、新興国の経済を、時間軸的に早回しにしたミニチュアモデルとしてかなりの相似性を示しそうでもある。

第2、第3の仮想通貨が出てくると……

 理論面では優れている面もあるとして、運用面ではどうか。

 懸念点としては、まず、経年的に先進国的な問題を抱えることになる(成熟化問題)。

 原理的な設計を変えられない限り、金融政策に相当する施策が原理的に打てない。新規発行が機械的に決まっているためだ。裁量的な金融緩和や引き締めができないと、ビットコイン通貨圏の市場規模の増大や縮小の余波をプライスの大きな上下動で調整されざるをえない可能性が高い。

 また、最終的にはインフレ率は0になるが、これはいま先進国のコンセンサスである最適インフレ率が2~4%だということを考えると、最終的にはデフレ経済となってしまうと予想される。ビットコイン圏においてビットコインは退蔵されやすく、経済活動が滞りやすくなるということは、ポール・クルーグマン氏をはじめ多くのマクロ経済学者によっても主張されている。

 また、ビットコインは当初こそ各国の金融当局が無視できる規模であったが、いまやビットコイン1単位(BTC)の価格は1000米ドルを超える局面もある。かりに1BTC=1000米ドルだとすると、現状で1200万BTCが流通しているとすれば、その規模は1兆円を超え、最終的には2兆円規模となる。今後、ビットコインの交換レートがさらに高騰を続けるならば、一国の経済規模と比肩し、世界経済としても無視の出来ないものになるかもしれない。そして、それは、管理者不在で、国家がコントロールしにくい領域となるため、各国の金融担当者はその動向に頭を悩ませる事態となりかねない。

 さらには、ビットコインの亜種も多数誕生している(原理的にはだれでも作成可能だ)。ビットコイン並の規模となる仮想通貨が第2、第3と出てくれば、現実に世界経済の大きなウエイトを占めるようになる。そして、変更不可能な初期設定を誰がどのようにするかの見通しも極めて困難だ。それらをあわせて考えてみても、世界金融を不安定にする可能性は否定出来ない。

 いまのところ、中国は排除の姿勢を見せているが、米国は一定の懐柔策で対応しているようにも見える。これまでとは明らかに性質の違うマネーサプライが増大した状況に、世界の金融当局担当者はどう対応していくのか。まさにかつてない壮大なマクロ経済学的実験を目の当たりにする時代が到来するかもしれない。


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