トランプ氏は大統領就任直後の演説や記者会見で、2月1日以降、カナダとメキシコからの輸入品に25%、中国からの輸入品に10%の追加関税を課すと発言したが、EUについては追加関税率や実施日を言及しなかった。ただし彼は就任前に「欧州は、莫大な貿易黒字を重ねており、たちが悪い」と述べており、EUに対しても追加関税を導入するのは時間の問題とみられている。
その理由は、統計を見れば明らかだ。EU統計局によると、EUの米国に対する財の貿易黒字は、13年の813億ユーロ(13兆80億円)から94.2%増えて、23年には1579億ユーロ(25兆2640億円)となった。23年のEUの米国からの財の輸入額は、EUの米国への財の輸出額に比べて約31%少ない。トランプ氏がこの貿易黒字を不問に付すことはまずないだろう。
今回のディールのカギはLNG
EU加盟国の中で、米国に対する財の貿易黒字が最も多いのがドイツだ。23年のドイツの対米貿易黒字は858億ユーロ(13兆7280億円)で、EUの対米貿易黒字の約54%を占めている。
これはドイツの自動車や医薬品の米国への輸出額が多いからだ。ポルシェやBMW、メルセデス・ベンツは今も米国の富裕層のステータス・シンボルの一つだ。
自動車業界・医薬品業界はドイツの製造業界で最も重要な業種に属しており、トランプ政権が追加関税を課した場合の影響は甚大だ。米国のピーターソン国際経済研究所のジェイコブ・フンク・キルケゴール研究員は、「トランプ政権がEUからの輸入品に対して10~20%の追加関税を課した場合、米国のドイツからの自動車の輸入台数は32%、ドイツの医薬品の輸入量は35%減るだろう」と予想している。
今回もEUは、ディールをまとめるために天然ガスを使うだろう。EUは天然ガスの輸入を増やす必要に迫られているからだ。
22年にロシアからの海底パイプライン・ノルドストリーム1による天然ガス輸入が停止し、24年末にはオーストリアなどに陸上パイプラインで送られていた天然ガスもストップした。米国が今後天然ガスの生産・輸出量を増やせば、世界市場での天然ガス価格は現在よりも低くなる。つまりEUにとっては、米国からの天然ガスを増やすことには経済的にも意味がある。
実際フォンデアライエン氏は、18年に前任者が成功させたディールの経験を基にして、トランプ氏の心をくすぐるかのように、「米国のLNGは、比較的安い。したがって我々は輸入量を増やすのにやぶさかではない」と発言している。ただしEU加盟国の間では、「トランプ2.0は、トランプ1.0よりも手ごわくなる」という見方が有力だ。トランプ大統領は、行政機関、議会、共和党内での支配体制を強めた他、一期目の経験から多くを学んでいるだからだ。

