2025年3月18日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年1月30日

 外国の指導者たちは、額面通りに受け取ってはいけないという裏の保証よりも、実際の発言を信じがちだ。フランスとドイツはトランプの発言を十分に深刻に受け止め、国境の不可侵性を強調する声明を発表した。

 トランプが示唆を行動に移すなら、彼の2期目の大統領任期は正に波乱に満ちたものになるだろう。逆にトランプが具体的な措置をとることなく同じような主張を続けるのであれば、外国指導者はそれを軽視するようになるだろう。

 しかし、もしトランプが重大なメッセージや警告を発した場合はどうなるのだろうか。その言葉に信憑性がない米国大統領は、世界をさらに危険な場所にすることになろう。

*   *   *

トランプ発言の意図

 1月7日の記者会見で、トランプが安全保障上の理由でグリーンランドが必要であり、そのために経済的および軍事的手段を用いる可能性を否定しない旨述べたことが関係国に大きな波紋を広げている。また、カナダが米国の51番目の州となることが合理的でそのために経済的措置を取ることも示唆した。

 この社説の指摘の通り、これらの発言内容は、中国の台湾や尖閣に関する対応につき力による現状変更を認めないとする日本などの原則的立場や、領土の不可侵を定める国際法にも違反する聞き捨てならないものである。

 また、就任前とはいえ超大国の事実上の指導者が、本意でないことを言うのであれば、その発言は信頼されなくなり(既にその傾向は顕著であるが)、実際に重要なメッセージを送るときの支障になり、世界の安定に問題となるとの指摘ももっともである。

 他方、トランプがその性癖としてこのようなことを繰り返すことは今後も避けられないだろう。トランプが本当は何をしたいと思っているのか、「トランプ語」を読み解くことも必要であろう。

 グリーンランドはデンマークの自治領で、日本の6倍近い面積に人口5万7000人程度の人口であるが地球温暖化で利用が可能となる北極航路に近く、豊富な地下資源を有し、ロシアから米国向けの長距離弾道弾のコース上にあるという戦略的重要性を有している。米国は、1951年以来デンマークとの間の協定に基づきグリーンランドに米軍基地を置き、現在は弾道ミサイル早期警戒システムが常設されている。

 米国の安全保障についての懸念も理解されており、トランプが軍事力を用いてもグリーンランドを取る可能性など述べる必要はないはずだが、必要以上に強面に出て、北大西洋条約機構(NATO)諸国の国防費増額やグリーンランドとその周辺の天然資源に対する権益の確保、中国やロシアの締め出しといった外交目標実現のためのプレッシャーをかけ、交渉に少しでも有利な状況を作り出そうとしているのであろう。


新着記事

»もっと見る