2025年4月28日(月)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2025年2月6日

中国の英雄となったCEO

「文鋒、熱烈歓迎!故郷の誇り、希望だ!」

 広東省湛江市呉川市覃巴鎮の米歴嶺村ではこのような文字が記された横断幕が掲げられた。文峰とはディープシークの創業者である梁文鋒(リャン・ウェンフォン)のこと。旧正月に故郷に帰省した彼を、村をあげて歓待したという。そればかりか、わざわざこの田舎村にきて記念写真を撮っていった観光客もいたのだとか。

 「梁くんは優秀な子でね、特に数学は本当によくできた。中学校で高校の数学を終え、大学レベルまで勉強していたほどでした。だからってガリ勉でもなくてね。学ぶ時は学ぶ、遊ぶ時は遊ぶ。メリハリがしていたなぁ」

 こちらは故郷の地元メディアに掲載されていた、中学校の担任教師が語る梁文鋒。田舎の村で育った普通の子でサッカー好きなどなど、人となりが紹介されている。ビジネス系の扱われ方というよりも、金メダルを取った五輪選手の紹介といったイメージだ。

 1月20日には李強首相主催の座談会に招かれたことで、「中国政府公認の中国AI第一人者」の座を確固たるものとした。もはや経営者というよりも、中国の英雄という位置づけだろう。それはディープシークが「米国の鼻をあかしてやった」と評価されていることが大きそうだ。

 中国メディア「観察者」は1月29日、「各国の専門家がDeepSeekを語る:米国政府は巨大なチャレンジに直面している、制裁戦略全体の無効が証明された」との記事を掲載。「制裁はすでに過去のゲームであり、米国の戦略全体が無効であることが証明された。米国は数十年にわたり続けてきた制裁という仕組みに執着しすぎており、放棄できずにいる」という、カナダのコンサルティング企業ジオポリティカル・ビジネスのアビシュア・プラカシュCEOのコメントを取りあげている。

米国の制裁を突破したか

 バイデン政権は「スモールヤード、ハイフェンス」をキーワードとし、中国の新興技術の封じ込めを狙った戦略を取ってきた。その中核を占めるのが半導体だ。中国の先端半導体国産化を抑止するとともに、先端半導体の中国への輸出を禁止した。その目的はAIという新たな重要テクノロジーで米国のリードを確固たるものとすることにあった。

 バイデン前大統領は退任直前となる2024年12月にも新たな半導体規制を発表した。中国以外の国への輸出も規制することで、第三国を経由しての迂回輸出という穴をも塞ぐ項目も盛り込まれるなど包括的な内容だ。

 中国でもファーウェイなど一部企業がAI開発に必要な半導体を製造しているが、性能は劣るとされる。密輸、あるいは海外のデータセンターでトレーニングするなどの手法を使って制裁下でも開発が続けられていたが、規制の影響があらわれてきているとも伝えられている状況だった。

 ディープシークが12月に発表したV3というモデルは、規制に抵触しないよう性能を落としたH800という半導体を2048個利用して開発され、開発コストは約8億円だったと発表されている。最新のR-1でどれほどのリソースが投じられたかは不明ではあるが、V3も相当の高性能だ。それを通常想定されるよりもはるかに少ない開発リソースで生み出したことで、米国の制裁を突破したと評価されている。

 もっとも、庶民にとっては、そんな小難しい話よりも、「iPhoneの米国アプリストアのランキングでディープシークが1位に」というニュースのほうが分かりやすかったようだ。あんなに中国のことを叩いておきながら、中国からクールなアプリがでたら掌を返したのがおもしろいということのようだ。


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