加藤 テレポーテーションというと、ちょっとミスリードということですね。
野村 そうですね。解読されないというだけで、何らかの「物質」が空間を通ることには変わりはない。物質である以上、光速を超えることもできませんから、「瞬間的に」というのも不可能で、送り先の距離に相当した時間は掛かってしまいます。
合田 テレポーテーションに量子性は必要ないということですか。
野村 「物体」そのものではなくても「情報」を別の場所に送ることができるというのは重要ですし、そこには量子性を使っています。ただ、仮に人間の全情報を送れたとしても、送り先で元通りに再構築できるかは定かではありません。
暦本 スティーブン・キングの短編小説『ジョウント』では意識がある状態でテレポーテーションを実施すると脳が破壊されるという設定があります。ですから、移動する直前に特殊な麻酔でシナプスを全部止める設定になっています。
野村 それは面白いですね。もしかしたら作者は量子テレポーテーションの原理を知っていたのかもしれませんね。
『ドラえもん』の道具は
作れる?
瀧口 さて、ここまでタイムマシンやテレポーテーションのお話をしてきましたが、こうした設定が描かれていて日本人に最も身近なSFといえば『ドラえもん』ではないかと思います。実際に実現できそうなドラえもんの道具ってあるんでしょうか?
合田 『ドラえもん』の道具って2000個くらいあるらしいんですけど、類型化すると大体20~30パターンに落とし込むことができそうです。例えば、「どこでもドア」と「通りぬけフープ」って原理はほぼ同じですよね。
暦本 たしかに。そう考えると、多くの道具で量子テレポーテーションが使われている感じがします。『ドラえもん』は実は〝量子力学漫画〟なのかもしれないですね。
合田 そもそも「四次元ポケット」も量子テレポーテーションのコンセプトに近いですしね。
瀧口 量子力学のグループではなさそうな道具として「タケコプター」はどうですか。
合田 あのままの形を再現して人の頭につけたとすると、たぶん頭皮が剝がれます……。
野村 首が反対側にぐるぐる回ってしまいますから危険ですね。
暦本 何か道具を使って飛ぶということを実現したいのであれば、すでにドローンがありますから、背負ってしまえば同じように飛ぶことはできます。たぶん、頭皮に装着することが最も難易度が高いのではないでしょうか。
瀧口 モノを大きくしたり小さくしたりする「ビッグライト」や「スモールライト」はどうですか?
合田 熱力学的な観点で言うと残念ながら、両方とも難しいですね。
細胞や分子の数はそのままで、大きくしたり小さくしたりはできるという前提において、人間の体は今のサイズ感で体温を36度から37度くらいに保つことで免疫機能を維持して存在しています。小さくなると熱の発散によって周りの温度と一体化してしまうので、体温が外部環境の温度くらいまで一気に下がってしまうわけです。結果、免疫力が低下して、やがて死に至ります。
「ビッグライト」ではどうかというと、例えばアリをゾウぐらいに大きくしたとしましょう。逆にアリは断熱的な体になっていて、自分の体温をいかにキープするかという能力に長けています。だから、大きくしてしまうと、逆に熱の発散ができなくなって、一気に高熱のような状態になって死んでしまいます……。
生き物はそれぞれ熱力学的に適切なサイズになっているので、大きすぎても小さすぎても外部環境と共存できないんですね。
野村 物理的に小さくなることは難しいかもしれませんが、疑似的に体感するという意味ではアップル社が開発した「ビジョンプロ」などを使えば可能になるのではないでしょうか。小さくなった時の世界の情報を何かで撮って、それを再構築してビジョンで映せば、主観的には小さくなっていることになりますよね。
暦本 たしかに、視覚だけでなく、匂いや触覚も含めて、実現したい世界に書き換えたものを脳に認識させることができれば、「体感」することはできますね。