2025年3月29日(土)

天才たちの雑談

2025年2月20日

 この実験は「二重スリット実験」という有名なもので、2枚の壁を前後に置いて、手前の壁には上下に2つのスリットを入れます。手前の壁に向かって電子を1発ずつ撃つと、奥の壁にどうやって当たるか、という実験です。電子は分裂できないので、スリットに沿って二本の横線ができると想像ができるのですが、縞模様ができたんです。

 こういったことが起きる確率を方程式で説明するのが量子力学なのですが、数学的には、「上のスリットを通った」という事象と「下のスリットを通った」という事象が同時に存在し、互いが干渉し合っていると解釈しなければこの現象の理解ができないのです。

 これを「パラレルワールド」という言葉で表すかというのは人によるかもしれませんが……。

加藤 なるほど。ただ、少なくとも電子レベルであれば、1つの電子というのが2つの状態を保持することができるというのは実験で確認ができているということですね。人間が2つの世界に存在するというのは可能なのでしょうか。

野村 ほとんど不可能でしょうね。こうした「干渉」はちょっとした揺らぎで消えてしまうものなので、ものすごい精度でコントロールしなければなりません。電子1つですら干渉させることが難しいのに、人間という無数の原子や電子の集合体となると、その干渉確率は指数関数的に激減します。ただ、このコントロール技術も進歩していて、今では電子1つよりもう少し複雑なシステムぐらいは干渉できるようになってきています。

 この理論を使っているのが、実は量子コンピューターなんですね。物理学者のリチャード・ファインマンが量子コンピューターというアイデアを出した43年前には夢物語だったものが、実現しました。

 ただ、タイムスケールはやっぱり100年単位なので今、私たちが議論しているSFの世界の話も100年後にいくつかは実現しているかもしれません。

合田 今、量子コンピューティングの分野は世界的に見ても各国が国家も民間も力を入れていて、〝バブル〟状態ですよね。

野村 量子が得意とする能力の中でも、暗号が破れるとか、情報を間の空間を一切通さずに送れるといった、軍事技術につながるようなものには、かなりのお金が付いていますね。特にアメリカはすごい。これは、マンハッタン計画で原爆を開発した時と同じ思考法です。アメリカには「自分たちが最初にやるんだ」という思いが強い。善しあしは別にして、アメリカとはそういう思考法をする国なのです。

量子テレポーテーションが
常識になる?

瀧口 「空間を通さない」というのは、量子テレポーテーションということですよね。瞬間的に人やモノが移動するという設定も、SFでは〝あるある〟ですが、量子を使えば実現できるのでしょうか?

野村 量子テレポーテーション自体はすでに実現できているんですが、皆さんのイメージとはちょっと違うかもしれません。

 そもそも、量子テレポーテーションは「情報」をテレポートさせるものです。ご存じの通り、量子コンピューターは高速での計算が得意です。現在の暗号は大きな数の素因数分解が難しいということを使っていますから、それが量子コンピューターを用いて計算できてしまえば、どんな暗号も解読できてしまう。これを防ぐために、途中で情報を得ることができない送信の方法として「空間を通さない」量子テレポーテーションが考えられているのです。

 先ほどパラレルワールドの話をしましたが、量子力学を使えば、簡単に言うと1つの粒子を同時に2カ所、例えば東京とアメリカに置くようなことができます。

 そこでは、東京からアメリカに「J」という暗号を送りたいと思った時に、東京で粒子に「J」を入れると「3」が出て、その「3」をアメリカに持っていって、アメリカの粒子に入れると「J」が出るといったことが可能になります。この時、途中で「3」を取得されても「J」と紐づいていることが分からないため、暗号を解読することはできません。つまり、実質的に「盗まれてはいけない情報」が空間を通っていないという話なんです。


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